慢性腎臓病(CKD)と診断されたら、腎臓の機能を低下させる原因の疾患を調べる必要があります。そして、CKD進行しないように腎臓を保護するような行動をすることで透析への移行を遅らせることが必要です。
CKDを管理していく内容について説明します。
改善すべき生活習慣
食事:塩分とたんぱく質
CKDの患者さんが食事療法で気を付けるポイントは塩分制限とたんぱく質制限です。
塩分が体内に過剰な状態になると腎臓から排泄されます。腎臓に負担がかかります。高血圧を助長したり、CKD患者さんでは腎機能の低下を早めることになります。
腎機能が低下(GFR 60未満)している場合は、1日の塩分摂取を6g未満になるように食事を調整しましょう。GFRが低下していなくても、高血圧があれば塩分制限が勧められます。
たんぱく質は体を作る大事な栄養素ですが、たんぱく質が分解されて尿に排泄されるときに腎臓に負担がかかります。CKDの患者さんは腎臓の機能(GFR)に応じて、腎臓を保護するためにたんぱく質の摂取制限を行います。
標準体重(身長から計算し、BMIが22になる体重)あたりで下の表のように計算されます。
GFR 60以上 | GFR 60未満 | |
---|---|---|
塩分制限 | 高血圧があれば 塩分 3g/日以上 6g/日未満 | 塩分 3g/日以上 6g/日未満 |
たんぱく質制限 | 制限なし | 標準体重 1kgあたり 0.8~1.0g/日 |
GFR 45未満なら 標準体重 1kgあたり 0.6~0.8g/日 |
たんぱく質を制限すると摂取エネルギーが減少する可能性があります。制限中のエネルギー必要量は健常な方と同等です。たんぱく質以外のエネルギー源で摂取する必要があります。
たんぱく質制限時の目安
腎機能が低下すると血液中のカリウムが上昇することがあります。高くなりすぎると不整脈などの問題が生じます。
食事によるカリウム摂取を制限することがあります。
体重:BMIは25未満に
生活習慣病の管理として、BMIを25未満にコントロールしましょう。BMIは身長と体重から計算されます。
BMIの計算
たばこはやめる
喫煙するとニコチンなどの有害物質により血管が収縮します。血管が豊富な腎臓で血管が収縮すると血流が低下し、腎臓の機能を低下させます。
CKDの進行を抑えるためには禁煙が重要です。
生活習慣病の管理目標
高血圧の管理
高血圧は腎臓に負荷をかけてCKDを進行させるため、高血圧は厳重にコントロールされる必要があります。降圧目標は以下のようになります。
- 糖尿病の合併あり 130/80mmHg未満
- 糖尿病の合併なし
- 尿蛋白なし(A1) 140/90mmHg未満
- 尿蛋白あり(A2, 3) 130/80mmHg未満
推奨降圧薬:ARB、ACE阻害薬、MRA
尿蛋白なしの場合は、Ca拮抗薬あるいは利尿薬も使用されます。また、GFR 45未満では腎臓専門医に内服薬を相談することも勧められています。
糖尿病の管理
コントロール不良の糖尿病は腎臓の機能を急速に低下させます。糖尿病性腎症は透析にいたる最も重大な原因です。血糖コントロールの指標となるHbA1cを7.0%未満にすると合併症の進行を抑えることができます。しっかりと血糖値をコントロールしましょう。
HbA1c 7.0%未満に血糖値をコントロール
腎機能が低下(GFR 60未満)すると血糖降下薬が効きすぎて低血糖のリスクが上がるため慎重な調整が必要です。腎機能低下に併せて使用できない薬もあります。
- GFR 60未満:ビグアナイド薬は禁忌
- GFR 45未満:チアゾリジン薬、SU薬も禁忌
脂質異常症の管理
脂質異常症は動脈硬化を進行させる要因です。脂質異常症もしっかりとコントロールする必要があります。
LDLコレステロール 120 mg/dL未満
または nonHDLコレステロール 150mg/dL未満
腎機能が低下すると副作用である横紋筋融解症のリスクがあがるので、注意が必要です。フィブラート薬ではGFRが30未満になるとクリフィブラート以外は禁忌となります。
CKDでチェックされる項目と対応
貧血
赤血球は骨髄で作られますが、腎臓から赤血球を作り始めるための酵素(エリスロポエチン)がでます。腎不全が進むとこの酵素が減少することで赤血球が減ることになります。
腎臓が原因の貧血であり、腎性貧血と呼ばれます。定期的に血液検査を行い貧血状態にないかを評価します。
腎性貧血になれば、酵素を補充するための治療が行われます。
骨代謝(カルシウム・リン)
腎臓は骨を強くするために大事な働きをする活性型ビタミンDを作っています。活性型ビタミンDは腸からのカルシウム吸収を助けます。
腎不全が進むと活性型ビタミンDが減り、カルシウムが不足(低カルシウム血症)し結果として骨からカルシウムが溶け出します。骨が弱くなってしまいます。
逆に血液中のリンが上昇(高リン血症)します。高リン血症は無症状ですが、体のあちこちや血管が硬くなる(石灰化する)ことがあります。
カリウム
腎臓の機能が低下すると電解質の一つであるカリウムが体に残りやすくなります。血液中のカリウム値が上がりすぎると危険な不整脈の原因となります。
カリウムが上昇した原因を検証します。食事な内容であったり、カリウムがあがりやすい薬剤の見直しを行います。
カリウムを下げるための治療(内服、点滴、透析など)が必要なこともあります。
尿酸
腎臓の機能が低下すると尿酸値が高くなりやすくなり、尿酸値が高いと腎臓の機能が低下することがあります。GFR 60未満で、尿酸値が8.0mg/dLを超えたら薬物治療が推奨されます。
尿毒素
腎不全が末期に近づくと尿毒素が体内に残っていきます。尿毒素が高くなりすぎると食欲不振、気分不良や意識障害などの症状が出現します。
GFRが30未満になってくると尿毒素に注意し、必要に応じて球形吸着炭を服用します。
内服薬の確認
内服薬は体内に入った後に排泄されます。排泄される経路として肝臓での代謝から腎臓からの排出があります。それぞれの薬で、どこから排泄されるか特徴があります。
腎臓からの排出がほとんどの薬では、腎機能低下に従って体内の薬の濃度が高くなり副作用のリスクが高まります。腎機能に応じて用量を調整したり、中止したりする必要があります。
腎臓を保護することが期待される薬
ACE阻害薬やARB
ACE阻害薬とARBは降圧薬でありながら、腎臓を保護する効果が示されています。その機序としては、腎臓の中に無数にある糸球体という部位にかかる圧力を下げることで腎臓の負担を減らすことがわかっています。
腎臓の機能が低下傾向であれば、降圧薬としてはACE阻害薬やARBが使用されます。
ACE阻害薬やARBの適応症はほとんどが高血圧です。ロサルタンは適応症として高血圧以外に「2型糖尿病における糖尿病性腎症の高血圧及び蛋白尿」が含まれます。イミダプリルの2.5mgと5mgも高血圧以外に「1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症」が含まれます。
これらの薬は血液中のカリウム値を上昇させてしますことがあります。特に腎臓に問題がある場合は注意が必要です。
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は尿からのブドウ糖(グルコース)排泄を増やすことで、血液中のグルコース濃度(血糖値)を下げる薬です。
血糖値を下げる効果以外に、慢性腎臓病の進行を抑える効果が報告されています。SGLT2阻害薬で慢性腎臓病の適応がある薬は以下のようになります。
- ダパグリフロジン
- エンパグリフロジン
- カナグリフロジン(糖尿病合併の慢性腎臓病)
MRA
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)はアルドステロンというホルモンの働きを阻害し、腎臓において尿へのナトリウム排出を促します。
MRAのうちフィネレノンは糖尿病患者さんにおいて腎機能の低下を抑える効果が報告され、「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病<末期腎不全又は透析施行中の患者を除く>」が適応症となっています。