慢性的な便秘で困っている方は意外と多いと思います。便秘の原因や改善すべき生活習慣についての解説です。
2023年に発表された「便通異常症診療ガイドライン2023 日本消化管学会」を参考にしています。
便秘症とは
便秘の定義は、『本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状態・硬便・排便回数の減少や排便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態』と表現されます。
つまり、大腸内で便の通過が遅くなり、便の状態が悪くなって、排便が順調に行われない状態のことです。
慢性便秘症になると、「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも様々な支障を来たしうる状態」と定義されます。
便秘症の診断
以下の6項目のうち2項目以上満たす場合に「便秘症」と診断されます。
便形状 | 排便の4分の1以上の頻度で、便スケール 1または2 |
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排便頻度 | 自発的な排便頻度が、週に3回未満 |
怒責 | 排便の4分の1以上の頻度で、強くいきむ必要がある |
残便感 | 排便の4分の1以上の頻度で、残便感を感じる |
直腸肛門の閉塞感・困難感 | 排便の4分の1以上の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある |
用手的介助 | 排便の4分の1以上の頻度で、用手的な排便介助が必要である |
便秘症の診断をする際に便の性状をチェックします。便の性状はブリストル便形状スケールが使用されます。
便秘症の原因を探る
慢性的な便秘になる原因は様々です。以下のように分類されます。
お腹の専門(消化器科)で診てもらう基準
便秘症の中には、お腹の中(大腸など)の病気が原因で起こっている可能性があります。大腸がんなどで大腸が狭くなり通過しにくくなっている場合(二次性 狭窄性器質的便秘症)や狭くなくても通過障害がありそうな場合(一次性 非狭窄性器質的便秘症)は、お腹の専門医療機関(消化器科)で診断・治療を受けることになります。
器質的便秘症を疑う所見としては、以下のようなものがあります。
- 排便習慣の急激な変化
- 血便
- 6ヶ月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少
- 発熱
- 関節痛
- 以上な身体所見(腹部に腫瘤が触れる、直腸診にて腫瘤や血液など)
このような所見がある便秘症は消化器科にて専門的に診てもらう必要があります。超音波検査やCT・MRIなどの画像検査が行われます。大腸内視鏡検査が行われることもあります。
便秘になりそうな薬を飲んでる?
慢性便秘症につながる薬は意外と多くあります。以下のような種類の薬を飲んでいる場合は便秘になる可能性があります。治療上必要な場合は、内服を継続しながら便秘の治療が行われます。
慢性便秘症の原因となりうる薬剤
薬剤の種類 | 理由 |
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抗コリン薬 | 抗コリン作用(消化管の蠕動運動などを抑制する作用)があるため |
向精神薬(抗精神薬、抗うつ薬) | 抗コリン作用(消化管の蠕動運動などを抑制する作用)などがあるため |
抗パーキンソン薬 | 抗コリン作用(消化管の蠕動運動などを抑制する作用)などがあるため |
オピオイド系鎮痛薬 | オピオイド薬には消化管の蠕動運動を抑える作用がある |
制吐薬 | 5-HT3受容体拮抗薬による蠕動運動抑制作用がある |
利尿薬 | 電解質の変化や水分の減少により便秘しやすくなる |
カルシウム拮抗薬など | 腸の筋肉の収縮を低下させるため蠕動運動が低下する |
他にも便秘の原因となりうる薬があります。医師や薬剤師にご相談ください。
便秘になりそうな病気がありますか?
慢性便秘症の原因となりうる病気を以下に示します。原因となる疾患を治療することで便秘が改善することがあります。改善しない場合は便秘の治療を継続します。
慢性便秘症の原因となりうる病気
- 糖尿病
- 内分泌疾患(甲状腺機能低下症、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症)
- アミロイドーシス
- 膠原病(全身性強皮症、皮膚筋炎)
- 神経疾患(パーキンソン病、脳血管疾患、多発性硬化症、ヒルシュスプルング病、脊髄障害)
- 筋強直性ジストロフィー
- 精神疾患(うつ病、統合失調症)
- 狭窄性器質性疾患(消化管腫瘍、腫瘍による圧排、消化管の狭窄)
- 非狭窄性器質性疾患(慢性偽膜性腸閉塞症、巨大結腸、裂肛、痔核、直腸脱、直腸瘤)
便秘の回数は?便を出しにくい?
「器質的便秘症を疑う所見」がなく、「便秘になりそうな薬」の服薬もなく、「便秘になりそうな病気」がない場合は、機能性便秘症と判断されます。多くの方は一次性の機能性便秘症に属すると思われます。
症状で分類すると、排便回数が減少している場合(排便回数減少型)と便を排出するのが難しい場合(排便困難型)があります。排便困難型の場合は、消化器科で診察してもらいましょう。
薬に頼らない便秘の解消法
一次性の機能性便秘症では、食生活や運動など普段の生活習慣を見直すことで便秘が解消されること期待できます。毎日継続することで徐々に改善していくので、継続して良い排便を目指しましょう。
食事の内容を見直す
食べたものが便になることを考えると食事の影響を受けることは容易に想像できると思います。便秘に効果があるとされる食事の内容について説明します。
食物繊維
便秘の解消に食物繊維が有効であることは多くの方が理解されていると思います。そもそも食物繊維は「水溶性の食物繊維」と「不溶性の食物繊維」に分けられます。
水溶性の食物繊維 | 水溶性食物繊維は水に溶けやすく、腸内でゼリー状の物質に変化し、便を柔らかくします。 腸の運動を促進します。 | こんにゃく 昆布、ひじき、わかめ くだもの |
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不溶性の食物繊維 | 不溶性食物繊維は水に溶けずに、腸内で水を吸収して便のかさを増します。 腸の運動を刺激します。 | 根菜類 きのこ類 緑黄色野菜 穀類 豆類 イモ類 |
特に水溶性の食物繊維は便の水分量を増やして柔らかくするため、硬い便の方には効果が期待されます。
水分を多く摂取する
水分を多く摂取することは食物繊維が水分を含むのに役立ちます。1日に1.5〜2.0L程度の水を飲みましょう。ただし、水分を多く摂ってはいけない病気(心不全や腎不全など)もありますので治療中の方は習字に適切な量を相談しましょう。
便秘に有効とされる食品
以下の食品は便秘に対してある程度効果があることが示されています。
- キウイフルーツ
- プルーン
- サイリウム(オオバコ)
- ヨーグルトなど
運動習慣を見直す
ウォーキングなどの有酸素運動の習慣があると、食物繊維をとることによる便の改善が期待されるようです。逆に運動習慣が少ないと食物繊維の効果が弱くなります。
腹壁マッサージもある程度の効果があるようです。試してみても良いでしょう。
【腹壁マッサージの方法】
- あおむけで寝た状態で膝を曲げてお腹の緊張をとります
- おへそを中心として、周囲を時計回りに優しくゆっくりマッサージします
- 数分間続けます
習慣を見直す
便意があれば我慢しない
便意をがまんすると便が腸に滞在する時間が長くなり、水分が減って固くなってしまいます。溜めないことが大事です。
ストレスを管理する
ストレスが溜まっていると腸の動きを整える神経(副交感神経)が乱れます。腸の動きが低下します。
ダイエットは無理しない
ダイエットにて食事の量が減るとその分食物繊維が減ることになります。特に過度な糖質制限は便のかさが減って腸への刺激が減り、便秘しやすくなります。