高血圧は、多くの深刻な生活習慣病の一つであり、たくさんの方が罹患しています。にも関わらず、多くは治療が行われていなかったり、血圧のコントロールが不十分だったりします。
高血圧に効く生活習慣と薬物治療について理解し、治療目標を達成しましょう。
高血圧の治療目標は130/80mmHg以下
診察室血圧 130/80 mmHg 以下
または
家庭血圧 125/75 mmHg 以下
診察室血圧なら130/80mmHg、家庭血圧なら125/75mmHgを降圧目標にします。
ただし、以下の場合は血圧が下がりすぎることで問題が生じることがあるので、個々の状況に応じて調整されます。
75歳以上の高齢者
血圧を厳格に下げると腎機能低下のリスクある。
しかし、他の病気の状態によって必要と判断されたら診察室血圧 130/80mmHg、家庭血圧 125/75mmHgに目標設定することもある。
重度の脳動脈狭窄、閉塞がある場合
脳動脈に重度の狭窄や閉塞病変がある場合、ある程度血圧が高くないと脳の血流が保てない場合があります。
動脈硬化の進行を抑えるためには降圧したいのですが、降圧のせいで脳への血流が落ちるとふらふらしたり、意識が遠くなることがあります。
慢性腎臓病、尿蛋白なし
慢性腎臓病で尿蛋白が陰性であった場合、過降圧による腎機能低下の進行を抑えるためある程度の血圧でコントロールされます。
慢性腎臓病で尿蛋白が陽性であればしっかりと降圧していきます。
高血圧を改善させることのメリット
高血圧の状態から血圧を下げると以下のような改善効果が得られると言われています。
- 心血管イベント:約20%減少
- 脳卒中: 30-40 %減少
- 冠動脈疾患:約 20 %減少
- 心不全:約 40%減少
- 全死亡:10 -15%減少
血圧を下げすぎる(過降圧)と、逆によくないイベントが発生することもわかっています。過降圧になっていないかも経過を見ていく上で重要です。
【過降圧の目安】
- 収縮期血圧が120mmHg未満
- 75歳以上の高齢者で収縮期血圧が130mmHg未満
ただし、120mmHg未満でも低血圧の症状(ふらつきやめまい、失神)や臓器障害(腎障害など)がない場合は、そのまま治療が継続される場合もあります。家庭血圧を見ながら主治医に相談しましょう。
高血圧に効くライフスタイル
高血圧は生活習慣病の一つです。生活習慣病は、文字通り悪い生活習慣のために生じる病気です。高血圧は、ライフスタイルによる影響が非常に強い病気です。
高血圧治療の第一歩は、ライフスタイルを見直し健康を維持するために改善することです。まずは、血圧が上がる原因について再度確認しましょう。
- 塩分の取りすぎ
- 肥満
- 運動不足
- 喫煙
- ストレス
- 習慣的飲酒
- 睡眠時無呼吸
- 年齢
- 性別(男性)
- 家族歴
塩分を制限する
塩分(ナトリウム)の取りすぎは血圧上昇に強く影響を与えています。塩分を意識した食事を摂りましょう。
塩分制限の目標は1日6g未満です。これは高血圧の方はもちろんですが、血圧が正常の方も高血圧予防のためには6g未満にすることが望ましいとされています。
塩分摂取は1日6g未満に!
塩分について意識していない場合、1日10gを超える塩分を摂取していると考えられます。どのくらい摂取しているのか、尿検査で1日の食塩摂取量を推定することができます。
食塩摂取を推定する検査(尿検査)
年齢、身長、体重と尿検査にて1日の食塩摂取量を推定する式があります。大まかに塩分を取りすぎていないかをチェックする際に使用します。
まずはここから!塩分を控えるポイント
まずは、気をつけてほしい行動は3つです。
- 汁はできるだけ飲まない(ラーメン、うどん、みそ汁)
- 漬物や塩蔵品は控える
- 減塩を意識した調味料選び
塩分が多い食事に慣れていると、塩分が少ないことに不満を感じることもあるでしょう。そういう時に、減塩の調味料や代替の方法(だしの活用とか)を活用しましょう。
バランスの良い食事をとる
良い食事は、病気のリスクを低下させます。
高血圧を管理する上で、カリウムの摂取も重要です。カリウムは血圧上昇の原因となるナトリウムを体の外に押し出す働きがあります。カリウムを多く含む食品を意識して摂取しましょう。
カリウムを多く含む食品:野菜(ブロッコリーやほうれん草など)、果物(アボガドやバナナなど)、大豆や落花生
健康的な体重を維持する
高血圧を予防する・管理する上で、体重・肥満度は非常に重要です。
肥満があることで血圧は上がりやすくなります。健康的な体重を維持することは、高血圧の予防・治療に良い影響を与えます。あなたの肥満度がどのくらいなのか、ご確認ください。
定期的に運動する
できるだけ活動的になりましょう。身体活動をするとは、高血圧予防に効果があります。
運動の目安としては、週に150分の適度な強度の有酸素運動または75分のやや激しい運動が推奨されています。加えて、筋肉トレーニングを週に2日行うと良いとされています。
なかなかそこまで身体活動を行う時間や余裕がない場合は、とにかく座っている時間を短くしましょう。できるだけ歩く機会を作って、外に出ましょう。短い距離なら自動車を使わずに歩いていきましょう。
ストレスを管理する
ストレスを感じることが血圧に直接作用するかどうかははっきりしていませんが、ストレス状態になると食事習慣が乱れたり、アルコール摂取が過剰になったりします。自暴自棄になると健康に目を向ける余裕がなくなります。
ストレスを感じていたら、ストレスや不安を和らげる行動を模索しましょう。
たばこをやめる
喫煙習慣は血圧を上げることがわかっています。喫煙だけでも動脈硬化を進行させますが、高血圧が合併すると進行のスピードが上がります。
たばこ(加熱式も)を吸う習慣をやめましょう。
アルコールを控える
飲酒の習慣は血圧を上昇させることがわかっています。飲酒により一時的に血圧がさがることがありますが、習慣的に摂取することが問題となります。
まずは毎日アルコールを飲む行動をやめましょう。飲まなくても大丈夫な生活に変えていきましょう。
高血圧の薬物治療
血圧を下げる薬(降圧薬)の選択
高血圧治療の基礎はライフスタイルの見直しになります。それでも目標の値まで血圧が下がらない場合は、血圧を下げる効果がある薬(降圧薬)が処方されます。
血圧を下げる薬(降圧薬)はいろいろな種類があります。その種類の中でも、複数の薬品メーカーがそれぞれ発売しています。
降圧薬は1種類だけで十分な場合もありますが、それだけでは血圧のコントロールが不十分な場合は複数の種類を合わせて内服することもあります。
降圧薬の選択
どの種類の降圧薬を選択するかは、どのような病気に対して有用性が示されているかを参考にします。
左室駆出率(EF)が低下している心不全に対して、ARBやACE阻害薬、β遮断薬が心臓を保護する効果が示されています。頻脈があれば、β遮断薬が有用です。蛋白尿を認める慢性腎臓病(CKD)では、ARBやACE阻害薬が腎保護効果があることがわかっています。
特に他に病気がない場合に勧められているのは、カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬です。
降圧薬内服のタイミング
朝でも夜でも決まった時間にきちんと服用
多くの降圧薬は1日1回服用です。毎日同じ時間帯で服用を続けることで、血圧を下げる効果を得ることができます。
朝飲んでも、夜飲んでも良いのですが、大切なことは同じ時間帯に飲み忘れずに続けることです。飲み忘れしにくいタイミングで服用しましょう。
朝食をきちんと食べる習慣の方は、朝食後に服用することが多いです。「夜はアルコールを飲むから」「朝ごはん食べないし」などいろいろな方がいます。飲み忘れないタイミングで服用する習慣を作りましょう。
高血圧治療中の管理
家庭血圧で血圧の状態をチェックしよう
血圧の治療が開始となったことで満足してはいけません。高血圧の治療の目的は、血圧を下げて高血圧の合併症を避けることです。さらに、降圧薬による副作用が起きないかも注意します。
月に1回、クリニックを受診した際に測る血圧はあまり当てになりません。緊張したり、慌ていると血圧は高くなります。家庭血圧をチェックすることで日頃の血圧の状態を知ることができます。
以前から家庭血圧の記録には広く血圧手帳が使われています。最近では、スマートフォンアプリで記録する方も多くなってきました。また、スマートフォンと連動できる血圧計を使用すれば、自動で転記される機能もあります。
家庭血圧を測定し、主治医と状況を確認しましょう。
- 家庭血圧がまだ高かったら?
-
家庭血圧が目標に達していなかったら、ライフスタイルの改善を強化しつつ、降圧薬の追加・増量を検討します。
ただし、降圧薬が十分に効果を発揮するには数日間継続することが必要です。慌てずに血圧を測っていきましょう。
- 家庭血圧が低かったら?
-
診察室血圧が高くても、家庭血圧を測ると血圧が下がり過ぎていることもありえます。血圧が低いと、ふらつきやめまい、疲れやすいといった症状がでます。
病院では高く出ても、家庭血圧は低い方もいます。降圧薬を減らしたり、やめたりすることを考慮します。
副作用がないかチェック
降圧薬は種類に応じて副作用がでることがあります。
定期的に、血液検査などで電解質異常や肝臓・腎臓の障害がないかチェックをします。
他の生活習慣病がないかチェック
高血圧があると脳や心臓などの障害を引き起こすことが問題となります。これは、他の生活習慣病である脂質異常症や高血圧などがあるとさらに発生リスクが高くなります。
他の生活習慣病があれば、きちんと治療・管理することが必要です。