ペースメーカーは植込んでから、長いつきあいが始まります。気をつけていれば、それまでの日常生活を大きく変更する必要はありません。うまく付き合っていくために、注意していただきたいこと説明しております。必ず確認してください。
ペースメーカーを植込んだ部位の管理
抜糸は必要ですか?
ペースメーカー本体を植え込んでいる場所の創部は糸で縫合されています。外から見えない部分は、次第に溶けていく糸が使われています。
表面の見える部分は、医療用のボンドやテープで止めていることが多いです。その場合は抜糸は必要ありません。表面を糸で縫合されている場合は、抜糸が必要です。抜糸をする際は、通常は手術から7〜10日後になります。
※ リードレスペースメーカーではこの項は該当しません
傷口のケアはどうしたら良いですか?
見た目はきれいになっても、傷が完全に癒えるまでに数ヶ月を要します。強い刺激を与えたり、不潔な状態にしないように気をつけましょう。表面をボンドで覆っている場合は1−2週間で剥がれます。剥がれかけた時は強くひっぱらないでください。めくれた部分はハサミで切っても良いです。
女性はブラジャーのヒモが傷口をこすってしまうかもしれません。ストラップの幅が広いものや柔らかいものなどで工夫してください。
体を洗うときに、傷口の周りを手でやさしく洗いましょう。
石鹸をつけて洗っても良いです。ナイロンタオルなどで強くこすらないでください。
※ リードレスペースメーカーではこの項は該当しません
ペースメーカー本体の違和感はありますか?
どうしてもペースメーカーは異物ですので、違和感や不快感を感じるかもしれません。しばらくすると慣れる方がほとんどです。数日間で慣れる方と数ヶ月かかる方がいます。
皮下脂肪がある程度あれば、外から見てもほとんど目立ちません。痩せている方は、本体が立体的に確認されることがあります。
※ リードレスペースメーカーではこの項は該当しません
日常生活について
どのくらいで運転できますか?
ペースメーカー植込み後にトラブルなく経過すれば、退院後に自動車運転は可能です。ただし、まれに退院後にペースメーカー不全が起こることもありますので、異変を感じたら運転はせずに医療機関を受診しましょう。
大型車や乗客を運ぶような運転は、退院後に約1ヶ月後の受診時に問題がないことを確認してからにした方が良いでしょう。ペースメーカーが順調に作動していることは、定期検診や遠隔モニタリングにて確認してもらいましょう。
上肢の運動制限はいつまで?
ペースメーカー植込み術直後は、挿入側の腕を動かすことによってペースメーカー本体の位置がずれることがあります。それを予防するために以下のような制限が必要です。
- 術後1か月目まで:手術側の肘を上げるのは肩の高さまで
- 術後3か月目まで:可動制限はありませんが、連続的に手術側の肩を回すような運動は避けてください
※ リードレスペースメーカーではこの項は該当しません
いつからスポーツができますか?
ペースメーカー植込みから1ヶ月くらいは激しい活動は避けましょう。
その後は、ほとんどのアクティビティやスポーツは可能です。
創部の保護の観点から、サッカーやラグビーなどのコンタクトスポーツは避けてもらいたいところです。必要な場合は、保護パッドを着用した方がいいでしょう。
非常に強度の高いスポーツやペースメーカーを植え込んだ方の腕を何度も動かすような運動も避けましょう。
性生活は可能ですか?
性生活を続けられない理由はありません。しかし、手術から1ヶ月程度は腕と胸に圧力をかける姿勢を避けるべきです。
注意すべき症状はありますか?
退院後に以下のような症状を自覚した場合は、手術を受けた施設に連絡しましょう。ペースメーカーの不具合やペースメーカー植込み部の感染が疑われます。早急の対応が必要になります。
以下のような症状が出たら、医療機関に相談しましょう。
- 息切れ
- めまい
- 失神
- ペースメーカーの側面にある腫れた腕
- 胸の痛み
- 長時間のしゃっくり
- ペースメーカーの部位での痛み、腫れ、赤み
フォローアップについて
ペースメーカーは手術を受けてから、残りの人生でフォローアップが続きます。
どのくらいの頻度で受診が必要ですか?
- 初回の外来受診
通常、手術を受けた病院で術後4〜6週間後に対面でチェックが予定されます。
ペースメーカーのトラブルは1ヶ月以内に気づくことが多いため、約1ヶ月後にチェックを行います。
- 2回目以降の外来受診
ペースメーカーの種類と状態によりますが、安定していれば6〜12ヶ月ごとの外来受診になることが多いです。
ペースメーカーは一度安定するとトラブルが発生することは多くありません。そのため、多くの患者さんで1年(12ヶ月)毎の受診となります。
外来受診時に行うこと
ペースメーカーをチェックする外来では、以下の項目をチェックします。
- 問診・視診
自覚症状を伺います。動悸や息切れの状態をお伝えください。
例えば、ウォーキングの時に疲れやすいといった自覚症状がある場合:体を動かした時に心拍数を上げて対応する(レートレスポンス)機能をいれることで、運動時に楽になることもあります。
創部に問題が起きていないかを確認します。皮膚が薄くなっている場合は、創部の保護をより気をつけてもらうことがあります。
- 胸部エックス線、心電図
胸部エックス線:ペースメーカー本体の位置、ペーシングリードの位置を確認します。また、心臓が以前より大きくなっていないか、肺うっ血(心不全兆候)などがないかを確認します。
心電図:正常にペースメーカーが作動しているかを見ることができます。ペースメーカーはきちんと機能しているとしていても心電図では問題が発覚することもあります。また、ペースメーカーでは記録できない不整脈を認める場合もあります。
- ペースメーカーチェック
フォローアップの受診時に、技術者または医師がペースメーカーの状態を確認します。体の外からペースメーカー本体と通信して情報を収集します。
【収集する主な内容】
- ペースメーカーの電池残量
- リード線の状態
- 電気の流れやすさ
- リード線から記録される心臓の電気信号の大きさ
- ペースメーカーの設定
- 不整脈イベント
- 活動量や心拍数などの生体情報
量の低下を認めた場合は、ペースメーカー交換術を考慮します。
- 心エコー検査(適宜)
心臓の働きを見る検査です。
必ず行うものではありませんが、長期間のペースメーカー作動(特に右室のペーシング)により知らない間に心臓の働きが落ちていることがあります。
自覚症状や胸部エックス線などで心機能の低下や心不全を疑った場合に心エコー検査を行います。
必要に応じてペースメーカーを最適な設定に再プログラムできます。電池残量の低下を認めた場合は、ペースメーカー交換術を考慮します。
ペースメーカーの電池消耗
ペースメーカーは電池で駆動しており、バッテリーの寿命は10年間前後です。電池が消耗した場合、ペースメーカー交換術をする必要があります。
適切な手術時期を決めるために、定期的なペースメーカー外来や遠隔モニタリングを継続的に行うことが大事です。
リードレスペースメーカーは、取り除くことは極めて困難です。そのため、電池が消耗した場合は新しいリードレスペースメーカーを追加で植え込むか通常のペースメーカーを植え込むことになります。
人生の終末期を迎える時
ペースメーカーは、心臓に不足している電気信号を補うための装置です。心臓を強くするものではありません。
人生の最後を迎える時には、電気信号を伝えても心臓は反応しなくなります。つまり、心臓だけがいつまでも動き続けることはありません。
亡くなった後にペースメーカーを必ずしも取り出す必要はありませんが、火葬の際に破裂することで大きな音が出たり、炉が損傷するリスクがあります。
ちなみにリードレスペースメーカーは取り出すことはできません。火葬場のスタッフにペースメーカーが挿入されていることを伝える必要があります。
遠隔モニタリングについて
遠隔モニタリングシステムとは、ペースメーカーやリードの状態、不整脈など異常を検知した際に、管理者に通知するシステムです。
安定したペースメーカーは1年毎のチェックで問題となることはほとんどありません。
ただし、生命維持装置の一つであるペースメーカーは、もし不具合が生じうると大きな問題となってしまいます。また、ペースメーカーの機能の一つに不整脈の検出があります。対応すべき不整脈(時に無症状)が起きた時に、ペースメーカーに記録が残ります。
このようにペースメーカーの不具合や対応すべき不整脈が検出された場合は、次に診察を待つことなく対応が必要となります。多くの場合、患者さんはそれに気づいていません。
ご自宅に設置していただく装置がペースメーカーと通信します。携帯電話の電波を使用してセンターに情報が送信されます。
情報は解析され、問題があれば医療機関に通知されます。夜、寝ている間に通信しますので、寝ている場所の近くに設置してください。設置には難しい設定はありません。
この遠隔モニタリングを使用するにあたり、毎月医療費の加算が発生します。医療費が発生することをご了承ください。
遠隔モニタリングで多くの情報を見ることができますが、定期的な対面によるチェックも必要となります。また、救急での対応を目的としていないため、対応するのに数日かかることもあります。