脈拍が遅くなることで症状がある場合は、なんらかの対応が必要です。その方法は頻脈性不整脈の対応とは異なりまります。
脈が遅い!と気づいたら
脈拍が少なくなった状態を徐脈と呼びます。一般的に正常とされる脈拍数は1分間に60回から100回になります。なので1分間に60回以下になった状態が徐脈です。
徐脈により起こりうる症状
徐脈になることで脳や他の臓器に十分な酸素が供給されないことによる症状が起きます。
- めまい・失神
脳に酸素が到達しないことで起こる症状です。
非常に酸欠に弱い臓器です。数秒間酸素が到達しないことで、脳は活動を停止してしまいます。目の前がくらくなったり、ふらっと感じたりします。
ひどくなると一時的に意識がなくなって、姿勢が取れなくなり倒れます。
脳への酸素が滞ると、脳はダメージを受けます。命に関わる可能性もあります。
- 息切れ・心不全
全身に十分な酸素が到達しないために起こる症状です。
体が必要とする血液が期待通りに送り出されず、疲れやすかったり息が上がったりします。
心不全の症状の一部である可能性があります。心不全になると、体のむくみや体重増加、強い倦怠感や安静時の息切れを自覚するようになります。
上記のような症状が一般的ですが、時々認知機能の低下や動悸の原因が徐脈性不整脈であったりすることもあります。
病院を受診するタイミングは?
- 脈拍の遅さを感じたら、かかりつけ医に相談しましょう。徐脈の程度や徐脈による問題が生じていないかを評価してもらいます。
- 失神したり、息苦しさが続くようなら救急要請(119番)をしましよう。
徐脈性不整脈の診断
診断は心電図で行います
不整脈の診断は心電図で行われます。不整脈が発生していない時の心電図をみても診断はつきません。不整脈にも持続するタイプとたまに出るたいぷがあります。たまに出るタイプの不整脈を見つけるためにいろいろな心電図の装置を駆使します。
- 12誘導心電図(通常の心電図)
病院や検診で測定する心電図は、胸に6つの電極、両手と両足に電極をつけて測定します。心臓の微弱な電気をいろいろな方向から測定することで、多くの情報を得ることができます。12種類の波形が記録されるので、12誘導心電図と呼ばれます。
記録時間:通常は10秒間程度。3分間測定することもあります。
不整脈の頻度:脈不整が持続している、症状が続いている
- ホルター心電図(24時間心電図)
24時間連続で心電図を記録する装置です。装着したまま生活をしてもらいます。多くの医療機関で行うことができます。
24時間しか記録できないので、毎日不整脈が出ている方でないと見つけられないかもしれません。
記録時間:通常は24時間
おすすめの不整脈:1日に数回症状がある
- イベントレコーダー(1〜2週間)
1週間から2週間の心電図を記録する装置です。装着したまま生活をしてもらいます。限られた医療機関で行うことができます。
記録時間:1週間〜2週間
おすすめの不整脈:数日に一回程度は症状がある
- 植込み型心電図記録計
胸の前面の皮下に植え込むタイプの心電図記録計です。繰り返す失神の原因精査に用いられます。失神は原因の特定が難しいことが多く、診断に非常に有用です。
また、原因不明の脳梗塞を生じた患者さんの中には、心房細動という不整脈が原因であることがあります。心房細動が確認されれば、脳梗塞予防の抗凝固薬を内服することで再発を予防できます。
体の外から測定器を当てて、内部の記録を確認することができます。電池の寿命は3〜4年程度です。
記録時間:機械が自動で不整脈を検出し、内部に記録します。
おすすめの不整脈:月に1、2回または数ヶ月に1回程度
徐脈性不整脈の種類
徐脈性不整脈の種類は大きく分けて、洞不全症候群と房室ブロックです。
- 洞結節の電気発生頻度が少ない(洞不全症候群)
- 房室結節の電気の通りが悪い(房室ブロック)
洞不全症候群
電気を発生され脈拍を調整している洞結節の機能が低下している状態。電気発生の頻度が安定した状態と一過性に電気の発生が低下する状態がある。それぞれ、洞性徐脈、洞停止といいます。
- 洞性徐脈:洞結節から電気は発生しているものの、頻度が少ない状態
- 洞停止:洞結節からの電気発生が一旦停止した状態
洞不全症候群の特徴
- P波が規則的に出現するが、頻度が1分間に50回以下になっている。
- 訓練されたアスリートでは、心拍数が少ないことがあります。
- 内服薬の影響で心拍数が減ることもあります。
- 脈拍が遅すぎることで倦怠感が出現したり、心拍が止まることで脳に酸素が届かずにめまいがしたり失神したりすると治療の適応になります。
洞不全症候群の分類
洞不全症候群はいくつかのタイプに分けれられますが、人によってはいろいろなタイプを有することもあります。
- 身体的活動に対し不適切な持続的な洞性徐脈
- 洞停止、洞房ブロック
- 心房の頻脈性不整脈直後に徐脈(洞停止、洞性徐脈);徐脈頻脈症候群
それぞれの状況での心電図はこちらをご覧ください。
- 身体的活動に対し不適切な持続的な洞性徐脈
典型的なP波が発生しQRS波形がつながっているが、P波出現の頻度が低下している
- 洞停止、洞房ブロック
急にP波が抜ける
- 心房の頻脈性不整脈直後に徐脈(洞停止、洞性徐脈);徐脈頻脈症候群
心房性の頻脈性不整脈が止まった直後、心拍の再開が遅れる状態。
徐脈頻脈症候群と呼ばれます
動により酸素やエネルギーが消費されます。それにより必要な酸素やエネルギーを心臓が送り出せるように心拍数を上げるためのホルモンが出ます。
そのホルモンに反応できないくらい、洞結節の機能が低下した状態です。
運動しても心拍数が上がらないことで、きつさや疲れやすさを自覚し日常生活に制限が出ます。
ペースメーカー植え込みで症状が改善することが期待されます。
房室ブロック
房室結節の機能が低下し、ポンプである心室へ電気信号が伝わらない状態です。
障害された程度により分類されます。
房室ブロックの特徴
- 房室結節の伝導が低下したことで起きます。
- 重症度の分類があります
- 内服薬の影響で房室結節の伝導性が低下することもあります。
- 脈拍がさがることで倦怠感が出現したり、心拍が止まることで脳に酸素が届かずにめまいがしたり失神したりすると治療の適応になります。
房室ブロックの分類
房室ブロックは、房室結節の機能障害の程度で分類されます。リストに下に行くほど高度な障害になります。
- 1度房室ブロック
- 2度房室ブロック(2:1 房室ブロックを含む)
- 高度房室ブロック
- 完全房室ブロック
- 1度房室ブロック
P波とQRS波形の間に時間差が生じている(房室結節を伝導するのに時間がかかっている)が、すべてつながっています。
- 2度房室ブロック(2:1 房室ブロックを含む)
2度房室ブロックでは、1度房室ブロックとは違ってP波の後にQRS波形が脱落します。しかし、その次のP波の後のQRS波形はつながります。
- タイプ1
P波とQRS波形までの間隔はだんだん長くなって、ぷっつり切れますが次はつながります。それを繰り返します。
Wenkebach タイプとも言われます。
- タイプ2
P波とQRS波形までの間隔は延長することなく、急にP波の後のQRS波形が途切れます。次はつながります。
Mobitz II タイプとも言われます。
- 2:1房室ブロック
P波の後、QRS波形が出るタイミングが2回に1回
- 高度房室ブロック
2度房室ブロックと完全房室ブロックの間とも言えます。
心室へ伝導しない、P波が2つ以上連続した状態です。
- 完全房室ブロック
P波は定期的に見られるが、QRS波形は連続していません。房室結節で、電気信号が完全に伝導していない状態です。
規則的なQRS波形がみられますが、電気がブロックされたところよりも心室よりで電気が発生しているためです。
突然、発作的に房室ブロックが出現し、めまいや失神に至る病気です。しばらくすると房室ブロックから回復します。
- 発作が起きていない時の心電図は正常のように見えることが多い。
- QRS幅が広い失神患者さんは、間欠的房室ブロックの可能性があります。
- 房室ブロックを確認するために、長時間心電図が測定できる方法で検査を行います。(イベントレコーダー、植込み型心電図記録計など)
徐脈性不整脈の原因
徐脈になる原因は以下のようなものが挙げられます
- 加齢による心臓の変化
- 心臓の病気(心筋症など)による心臓の変化
- 生まれついての心臓の刺激伝導障害
- 心臓の炎症(心筋炎)
- 心臓手術の合併症
- 甲状腺機能の低下
- 血液中の電解質異常(カリウムやカルシウムなど)
- 睡眠時無呼吸症候群
- 薬剤による影響
一般的には加齢による徐脈が多いですが、電解質異常や薬剤による徐脈も臨床の場ではよく見かけます。
- 鎮静剤、鎮痛剤
- 抗不整脈薬(β遮断薬を含む)
- 降圧剤
- 精神疾患に対する薬
徐脈性不整脈の治療
改善可能な徐脈の原因に対応する
徐脈に至った原因が明らかな場合、原因を除去することで脈拍が改善することがあります。
特に電解質異常は改善後に脈拍が戻ることが多いです。
薬の作用で徐脈となっている場合、薬が中止可能かどうかを検討します。元々の病気の治療に必要であれば、内服を継続しながら脈拍を上げる治療を選択します。
基本の治療はペースメーカー治療
脈拍が遅くなっている場合に、改善できる原因のものと原因不明(加齢や変性による)のものがあります。改善できる原因がない場合で、症状がある場合はペースメーカー治療の適応になります。
徐脈に対する薬は?
徐脈は、薬ではなんとかならない方がほとんどです。脈を速くする効果が期待される薬剤がありますが、効果は比較的不安定です。ごく一部の方で脈拍が安定することがあります。逆に、頻脈性不整脈を引き起こすことにもなりますので注意が必要です。
自覚症状のない徐脈はどうする?
自覚のない徐脈(特に洞性徐脈:洞結節から電気が発生する回数が少ない)は、特に若い成人に見られます。高度な運動を行っている人に多いです。加齢により頻度が低下します。そのような場合は、経過観察は不要です。
高齢の方では徐脈が進行することがあります。そのため、めまいや心不全の症状が発生していないかを定期的に観察する必要があります。