心房細動治療の考え方
心房細動は多角的な視点で評価を行い、総合的に治療方針を決める複雑な不整脈です。
心房細動を有する患者さんは、若い方から超高齢者まで年齢層が広く、心臓になんらかの病気を持っている方から全く持病のない方までいらっしゃいます。
心房細動の治療の考え方も複数あり、患者さんの病気に対する捉え方も様々です。どの治療を、何のために選択するのかきちんと整理しましょう。
心房細動治療の進め方
複雑な心房細動の治療戦略をわかりやすくするために、ABC pathwayとよばれる考え方が提唱されています(Nat Rev Cardiol. 2017;14:627)。
それによると、まずは脳卒中・脳梗塞予防について判断・対応し、症状の軽減にフォーカスし、心房細動になった背景について評価することになります。
- 心房細動により日常生活で大きなダメージを受けうるものの一つが脳梗塞です。
- 心房細動を指摘されたら、まずは脳梗塞のリスクについて評価し、必要に応じて予防を行います。
- 抗凝固薬が脳梗塞予防の効果があります。
- 心房細動による脳梗塞以外の問題に、自覚症状と心不全があります。
- それらにより日常生活が制限されていれば、治療の対象になります。
- 心房細動に対する治療として、心房細動のまま心拍数を調整するレートコントロールと正常の心リズムの維持を目指すリズムコントロールがあります。
- 心房細動が発生した原因と、心房細動の状況を悪くする要因がないかを評価します。
- 心血管リスク(心筋梗塞や心不全など)と心房細動のリスクはほぼ一致しています。
- 心房細動が出現したら原因を探り治療を行います。また、他の心臓病がないかも調べる必要があります。
A、B、Cの順番に心房細動の治療を見ていきましょう。
A. 脳梗塞を予防する
心房細動からの脳梗塞(心原性脳梗塞)は重症になることが多いため注意が必要です。どのような方が心原性脳梗塞を起こしやすいか今一度確認しましょう。リスクが少しでもあるようなら、脳梗塞の予防を検討しましょう。
再確認!心房細動で脳梗塞になりやすい人は?
心房細動治療の第一歩。脳梗塞リスクの評価です。最も有名なリスク評価はCHADS2スコア(チャズ スコア)と呼ばれるものです。
以下の項目がある場合、心房細動に関連した脳梗塞のリスクが上がります。点数が上がるほどリスクは高くなります。1点でもあれば脳梗塞予防を考慮しましょう。
項目 | 点数 |
---|---|
心不全・心機能低下がある | 1 |
高血圧がある | 1 |
年齢が75歳以上である | 1 |
糖尿病がある | 1 |
脳梗塞や一過性脳虚血発作がある | 2 |
あなたの点数は何点ですか?計算してみましょう。
CHADS2スコア以外のリスク因子もわかってきています。
CHADS2スコア以外にも脳梗塞発症リスクがあります!
- 年齢 65歳以上
- 腎臓の機能が落ちている
- 何らかの心筋の病気(心筋症)
- 進んだ動脈硬化(心筋梗塞、大動脈のプラーク、下肢の動脈硬化)
- 持続性の心房細動
- 体重が少ない(50kg以下)
- 左心房が拡大している
CHADS2スコアやそれ以外のリスクが1つでもあれば、脳梗塞の予防を考慮しましょう
CHADS2スコアが0点でもこのような因子をひとつでも持っているなら、脳梗塞の予防を考えましょう。
脳梗塞予防の第一選択は抗凝固薬
心房細動の脳梗塞予防で、第一に選択される治療法は抗凝固療法です。抗凝固薬と呼ばれる、血液が固まりにくくする薬を使って心房に血栓ができるのを予防します。
以前から使用されている抗凝固薬
- ワーファリン
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC; direct oral anticoaglants)
- プラザキサ®
- イグザレルト®
- エリキュース®
- リクシアナ®
【直接作用型経口抗凝固薬が勧められる理由】
- 新しい抗凝固薬は使いやすい
- 脳梗塞の予防効果はワーファリンより優れている
- 懸念される出血に関しては、ワーファリンと同等である
抗凝固薬以外の脳梗塞予防
抗凝固薬がどうしても飲めない場合や、飲んでいても脳梗塞になる場合には左心房内に血栓ができにくくする方法を検討します。
心房細動中に血栓ができるのは、左心耳と呼ばれる袋状の組織です。左心耳に対する治療を検討します。左心耳をプラグで塞ぐ左心耳閉鎖術や、左心耳を外科的に切除する左心耳切除術があります。
カテーテルを使用して心臓の内側から左心耳の入り口を塞ぐようにプラグを挿入する方法です。左心耳内に血栓ができても、飛ぶ出せないので脳梗塞・塞栓症が起こりにくくなります。
外科的に心臓の外から左心耳を切除する方法です。他の心臓手術と併せて行われることもありますが、単独で胸腔鏡を使って低侵襲で行われる方法もあります。
B. 心房細動に対する治療
心房細動による自覚症状や心不全が合併している場合、心房細動そのものに対する治療を行います。
心房細動のまま心拍数の調整を行う治療(レートコントロール)と積極的に正常の心リズムを維持する治療(リズムコントロール)があります。
レートコントロール:心房細動のまま心拍数調整
レートコントロール(rate control)では心房細動のまま心拍数(レート)の調整を行います。心房細動で自覚症状や心不全の悪化がある場合、心拍数が多いことが原因である可能性があります。
心房では細動が続いていますが、心房から心室へ電気を伝える中継所(房室結節)の電気の伝わり方を弱くすることで心室の心拍数を抑えることができます。
- β遮断薬
- カルシウム拮抗薬
- ジギタリス製剤
薬を組み合わせて使っても心拍数が制御できず身体的な状況が良くない場合、房室結節にアブレーション治療を行うこともあります。それにより、房室結節の伝導が途絶します。治療後は房室ブロックになるので、ペースメーカー治療が必要になります。
リズムコントロール:心房細動を止め、正常のリズムを維持する
心房細動により起こりうる問題がレートコントロールでは解決できない場合、リズムコントロールを行います。
積極的に正常の心リズムを維持するための治療です。リズムコントロールの重要なアプローチが2つあります。「心房細動を止める」と「心房細動の再発を予防する」です。
心房細動を止める治療
速やかに正常のリズムを取り戻したい場合は、心房細動を止める治療を行います。
- 電気ショック
-
心房内の乱れた電気信号を強い電気刺激で停止させます。
心房細動が停止し、自分のリズムを取り戻します。
痛みを伴うため、鎮静して行われます。
まれに、心房細動が止まらないことがあります。
- 薬(抗不整脈薬)
-
心臓の電気興奮に抑制的に働く薬を使用します。
効果は限定的です。
発作性心房細動の方は自然に止まるまで待つこともあります。自然に止まるまで、症状が強ければレートコントロールして症状を緩和させることもあります。
心房細動の再発を予防する
心房細動はやっかいな不整脈で一度止めても再発を繰り返すことが問題です。
心房細動を止めるなら、再発を予防することも同時に行う必要があります。再発を予防するには、以下のような方法があります。
【心房細動の再発を減らす方法】
- ライフスタイルの見直し
- 薬(抗不整脈薬)
- アブレーション治療
- ライフスタイルの見直し
-
心房細動が生活習慣病の延長で発生していることがあります。ライフスタイルを見直すことで、心房細動の頻度が低下します。
- 薬(抗不整脈薬)
-
心房細動の再発を抑えるための薬です。
効果は限定的です。効果があっても、だんだん効かなくなる方もいます。
抗不整脈薬には特有の副作用があり、使用は慎重に行います。
- アブレーション治療
-
心房細動の再発を強力に予防することができます。
アブレーション治療の適応とされた患者さんの8〜9割は、心房細動の再発が抑えられます。
低侵襲のカテーテル治療です。
* ただし、アブレーション治療では治療が難しい心房細動もあります。
最近では、アブレーション治療の役割が大きくなっています。以前よりも安全かつ効果的に治療が行われる様になりました。抗不整脈薬は副作用の懸念から漫然と内服し続けることは避けたほうが良いでしょう。
リズムコントロールの利点と問題点
しっかりとリズムコントロール(心房細動を止め、正常の心臓リズムを取り戻す)が維持されると以下のような利点があります。心房細動によって生じる問題が解決することが期待されます。
正常のリズムが維持できれば、心房細動によるいろいろな問題を解決することができます。
- 生活の質(QOL)が改善する
- 心不全が減る
- 脳梗塞が減る可能性がある
リズムコントロールの問題点としては、必ずしも正常の心臓リズムが維持されないことがある、ということです。心房細動になってしまった理由は人それぞれです。
心房の状態が良くない、コントロール不良の原因が残っている、アブレーション治療では治療困難などの原因で、期待される効果が得られないことがあります。
C. 心房細動の背景に対する治療
なぜ心房細動になってしまったのか、それがわかれば心房細動を抑える方法を知ることができます。また、心房細動の発生した要因は、心血管病(心筋梗塞や心不全など)のリスクとほぼ一致しています。
そのため、心房細動と診断されたら、他の心血管病が潜在していないかを探る必要があります。さらに、心房細動を予防する治療を行うことで、心血管病の発生を抑えることも期待されます。
心房に影響を与える要因
心房細動は、心房に負担をかけることで発生しやすくなります。心房の働きに影響を与える要因は以下のようなものがあります。
- 加齢
- 心血管疾患のリスクとなるもの(喫煙、アルコール、肥満、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群など)
- 併存疾患(心不全、慢性肺疾患、慢性腎臓病など)
不整脈に影響する要因をコントロールしましょう。
- バランス良い食事
-
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を抑えるため肉類や菓子類は控えましょう。肉よりも魚を選択します。
炭水化物は取り過ぎに注意(ご飯の量を測る)し、全粒穀物(玄米、全粒粉など)の割合を増やしましょう。野菜、きのこや海藻などを多く取り入れましょう。
果物も適度に食べてください。発酵食品も良いかもしれません。
- 適度な運動と健康的な体重を維持
-
できるだけ座っている時間を短くします。息が上らない程度の持続的な運動(有酸素運動)を可能であれば、30分間行うことを目標にしましょう。まずはいつもより10分間は歩くなど、身体活動を生活に取り入れます。
肥満があれば、減量に励んでください。肥満は多くの心臓病や生活習慣病のリスクを高めます。
- 血圧やコレステロールのコントロール
-
高血圧や高コレステロール値は、心臓病のリスクを上げます。心臓の負担を取るためにもライフスタイルの見直しに努めましょう。
健康診断などで指摘されたら、かならず近くの医療機関に相談しましょう。
- ストレスのコントロール
-
精神的および身体的ストレスは、不整脈を増やし心臓に悪い影響を与えます。不必要なストレスを避けるように心がけましょう。
瞑想やヨガなども効果があるでしょう。
- アルコールを制限
-
アルコールと不整脈は強く関係しています。不整脈を持っている方は、アルコールはできるだけ摂取しないほうが良いとされています。
- 禁煙
-
喫煙習慣も心臓への負担を増やし、不整脈に影響します。禁煙を強く勧めます。
近くの禁煙外来をしているクリニックに相談してもよいでしょう。
- 睡眠時無呼吸症候群の評価を
-
睡眠時無呼吸症候群は不整脈の原因となります。さらに不整脈以外にも、多くの病気の原因になります。
いびきや睡眠中の無呼吸が指摘されたことがあれば、一度は必ず検査を受けましょう。重症度に応じてCPAP治療などを行います。きちんと治療をしないと予後が悪いこともわかっています。
心血管病の合併に対する治療
心房細動に合併する心血管病で最も注意が必要なのは心機能低下・心不全です。心房細動を有する患者さんの死因の1位は心不全となっています。
心房細動と心不全はお互いに悪く作用し合っています。
- 心機能低下・心不全は心房細動を発生しやすくする
- 心房細動により心機能低下・心不全になることがある
心不全を合併している場合、心不全の治療薬を開始します。多くの有効な心不全薬があり、組み合わせて治療が行われます。ただし、心房細動に関連して心機能低下や心不全の増悪が考えられる場合は、可能であればリズムコントロールが勧められます。
- リズムコントロールで正常のリズムを維持すると心臓の機能が正常に回復することがあります。
- 元々心臓に疾患があり心房細動が合併した場合でも、リズムコントロールで心不全のコントロールが容易になる場合もあります。