心房細動は進行することがある
心房細動の進行とは?
心房細動は進行する不整脈です。心房細動は、出れば出るほど、続けば続くほど正常のリズムに戻りにくくなると言われています。
心房細動は持続時間で以下のように分類されています。
- 発作性心房細動:数分間〜数時間持続するが、自然に心臓のリズムが正常に戻る。出現する頻度は、年に数回から日に数回と人によって違います。
- 持続性心房細動:心房細動が自然に止まらなくなり、持続した状態。
- 長期持続性心房細動:心房細動が持続したまま、1年以上が経過した状態。
- 永続性心房細動:心房細動が何をしても止まらなくなった状態。
当初は発作性であった心房細動は、発作の頻度が増え、持続が長くなり、いつしか止まらなくなり持続性へ移行することがあります。
一度持続し始めた心房細動は、自然に止まれなくなり一年以上持続したものを長期持続性と呼びます。そして、何をしても止まらなくなったら永続性となります。発作性から永続性への進行の速度は人によって異なります。
心房細動が進行したらどうなる?
心房細動が長期持続性へ進行したら、正常のリズムを取り戻すのが難しくなります。
心房細動がある場合に正常のリズムを維持する方法は、薬物療法やアブレーション治療になります。心房細動が進行することで、その効果が低くなっていきます。
早い段階で心房細動を見つけ早期から治療について検討することが、正常のリズムを維持したり、心房細動の問題点への対応する際に役立ちます。
心房細動になると脳梗塞のリスクが上がる
心房細動の脳梗塞の関係
心房細動になると脳梗塞発症リスクが5倍になると言われています(Stroke 1991;2:983)。
なぜ、心房細動になると脳梗塞のリスクが上がるのでしょうか。
心房細動になると心房はブルブルふるえているだけで、きちんと収縮しなくなります。
その結果、心房の中の血液がよどみます。
血液はじっと置いておくと固まる性質があります。
心房の中でよどんだ血液は塊(血栓)になることがあります。
特に、左心耳(さしんじ)と呼ばれる左心房にくっついている小さな袋の中に血栓はできやすいです。
左心耳にできた血栓は、そこにじっとしておけばいいのですが、ぽろっと剥がれてしまうと大変です。
血液の流れにそって、心臓から全身へ向けて拍出されてしまいます。
血栓が溶けないまま血流に沿って全身の動脈に流れ着いたら、そこの動脈の血流を遮断してしまいます。
動脈の血流が遮断されると、栄養していた臓器が壊死(梗塞)します。
脳の動脈に到達した時に、脳梗塞になります。
比較的大きな血管が遮断されることが多いため、麻痺などの神経症状は重篤となります。
心原性脳梗塞とは?
脳梗塞には、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳梗塞」があります。「ラクナ梗塞」や「アテローム血栓性脳梗塞」は生活習慣病との関連が深く、動脈硬化が主因となります。
心房細動により生じる脳梗塞は、心臓の中に血栓が作られて脳へ流れ着くことで発症し「心原性脳梗塞」と呼ばれます。心原性脳梗塞は、特に障害の程度が大きいことが知られています。心原性脳梗塞は重症であることが多い
上の図は、2001年8月から2006年6月までに九州医療センターに入院した心房細動を伴う発症 7 日以内の急性脳梗塞連続 236 例を検討したデータです。退院時のmodified Rankin Scaleの内訳です。
脳梗塞を発症した場合に、どの程度の障害が残って日常生活に影響するのかを示す尺度として、modified Rankin scaleが使用されます。
0 | まったく症候がない |
1 | 症候はあっても明らかな障害はない:日常の勤めや活動は行える |
2 | 軽度の障害:発症以前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の 身の回りのことは介助なしに行える |
3 | 中等度の障害:何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える |
4 | 中等度から重度の障害:歩行や身体的要求には介助が必要である |
5 | 重度の障害:寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする |
6 | 死亡 |
いろいろな報告をまとめますと、心房細動から脳梗塞を起こすとmodified Rankin score 4点以上の後遺症を残す方が3〜4割程度に認めます。歩行に介助が必要であったり、寝たきりになってしまう方が4割程度ということです。命に関わる可能性もあります。
心原性脳梗塞は、前兆なく突然発症し一気に生活を変えてしまいます。
麻痺以外にも認知機能の低下、記憶障害、性格の変化、抑うつ気分や失語のような脳梗塞の症状があります。
心房細動による脳梗塞のリスク
心房細動になった場合に、全員が脳梗塞になるわけではありません。
心房細動で脳梗塞のリスクがある場合は、脳梗塞の予防が必要になります。特に、以下のような要素を持っている方は、心房細動になった際に脳梗塞のリスクがあがることが報告されています。
心房細動治療の第一歩。脳梗塞リスクの評価です。最も有名なリスク評価はCHADS2スコア(チャズ スコア)と呼ばれるものです。
以下の項目がある場合、心房細動に関連した脳梗塞のリスクが上がります。点数が上がるほどリスクは高くなります。1点でもあれば脳梗塞予防を考慮しましょう。
項目 | 点数 |
---|---|
心不全・心機能低下がある | 1 |
高血圧がある | 1 |
年齢が75歳以上である | 1 |
糖尿病がある | 1 |
脳梗塞や一過性脳虚血発作がある | 2 |
あなたの点数は何点ですか?計算してみましょう。
CHADS2スコア以外のリスク因子もわかってきています。
CHADS2スコア以外にも脳梗塞発症リスクがあります!
- 年齢 65歳以上
- 腎臓の機能が落ちている
- 何らかの心筋の病気(心筋症)
- 進んだ動脈硬化(心筋梗塞、大動脈のプラーク、下肢の動脈硬化)
- 持続性の心房細動
- 体重が少ない(50kg以下)
- 左心房が拡大している
CHADS2スコアやそれ以外のリスクが1つでもあれば、脳梗塞の予防を考慮しましょう
2024年のガイドラインでは、HELT-E2S2スコアによる脳梗塞リスク評価も示されるようになりました。
心房細動による症状で苦しむことがある
心房細動の主な症状
心房細動の代表的な症状は、動悸、息切れ・疲れやすい、めまいです。
- 動悸
-
心臓の拍動が速くなったり、不規則になることで心臓の鼓動を感じることを動悸と言います。脈拍が速いと、症状が強くなる傾向にあります。
動悸が強すぎて、痛みを自覚する方もいます。
- 息切れ・疲れやすい
-
心房細動により心臓のポンプとしての効率が落ちることがあります。体が必要とする血液が期待通りに送り出されず、疲れやすかったり息が上がったりします。
心不全の症状の一部である可能性があります。心不全になると、体のむくみや体重増加、強い倦怠感や安静時の息切れを自覚するようになります。
- めまい
-
心房細動により非常に脈拍が速くなったり、逆に急に遅くなったりすることで十分な血液が送り出されなくなると、脳に十分な酸素が供給できずに目の前がくらくなったり、ふらっと感じたりします。
場合によっては、失神(一時的に意識がなくなって倒れる)することもあります。
症状が強くて救急車で病院に運ばれる方もいますし、少しは気になるが日常生活に支障はないと感じている方もいます。一方で全く自覚症状のない方もいます。
心房細動全体の4割程度は自覚症状がないと言われています。
心房細動の症状の強さ
心房細動の自覚症状は人によって感じ方が違います。全く症状がない方から、症状が強く日常生活が制限される方がいます。症状の強さを(modified)EHRAスコアで表現することが一般的です。
modified EHRAスコア
スコア | 症状 | 説明 |
---|---|---|
1 | 症状なし | |
2a | 軽症 | 症状はあるものの日常生活に支障はなく、症状は気にならない |
2b | 中等症 | 症状があり、日常生活に支障はないものの、気になり困っている |
3 | 重症 | 症状が強く、日常生活に支障を来している |
4 | 強い障害 | 症状が非常に強く、日常生活が続けられない |
心房細動による自覚症状があり困っている状況では、積極的に心房細動に対する治療が勧められます。症状の緩和が期待されます。
自覚症状の有無や強さの違いは、次の項で説明する脳梗塞とは無関係です。自覚症状がない方は、知らない間に心房細動となり突然脳梗塞を発症してしまうかもしれません。
心房細動は心不全を引き起こすことがある
心房細動と心不全の深い関係
心房細動と心不全は深く関係しています。心房細動により心臓のポンプとしての機能が低下することもあれば、もともと心臓の病気がある方は心房細動が起きやすくなります。
心房細動患者さんの死因を調べた報告によると、心疾患が原因となって亡くなる方が最も多いことがわかりました。心房細動の患者さんが亡くなる原因の1位は心疾患とされています。心房細動そのもので命を落とすというよりも、心臓の機能を低下させることで生命を縮めるリスクになる可能性があります。
心不全はまだ症状が出てはいないが、こっそりと進行していることがあります。心房細動と言われたら、一度は心臓の働きを評価してもらいましょう。
【心臓の状態を確認する検査】
- 問診
- 心エコー検査
- 胸部エックス線撮影
- 血液検査(BNP、NT-proBNP)
- CT
- 心臓MRI