不整脈と関わる心電図の特徴的な波形として、WPW症候群があります。WPW症候群について紹介します。
WPW症候群って何ですか?
WPW症候群とは、特徴的な心電図を示す患者さんのうち不整脈を合併していることが多いと1930年に発表されました。発表に関わった3名の著者(Wolff, Parkinson, White)のイニシャルをとって、WPW症候群と名付けられました。
WPW症候群は、特徴的な心電図(デルタ波)を認め、不整脈の合併が起きやすい。
WPW症候群の心電図
WPW症候群は特徴的な心電図を呈します。キーワードはデルタ波です。
- P波のすぐ後にQRS波形が始まります
- QRS波形の始まりで斜めに波形が立ち上がります。この部分をデルタ波と呼びます。
- QRS波形の幅が広くなります。
WPW症候群の原因は副伝導路(ケント束)
WPW症候群は、房室結節以外の場所に心房と心室をつなぐ細い筋肉の線維があり、この線維を電気が通過することで生じます。
その電気を通す線維を副伝導路と呼んだり、ケント束(そく)と呼んだりします。
副伝導路の電気信号の流れ
副伝導路の電気が通過する方向は、心房から心室と心室から心房があります。
両方向伝導する方が多いですが、一方向しか電気が通過しない方もいます。つまり、心房から心室には伝導するが、心室から心房へは伝導しないか、その逆です
心房から心室への伝導があると、心電図でデルタ波を認めます。
心室から心房への伝導があると、発作性上室頻拍が起こり得ます
心室から心房へのみ電気信号を通過させる場合、潜在性WPW症候群と呼びます。
発作じゃない時の心電図でデルタ波は認めませんが、発作性上室頻拍は起こり得ます。心臓電気生理検査にて診断がつきます。
デルタ波の成り立ち
WPW症候群でデルタ波が見られる過程を、正常の伝導と比較して説明します。
洞結節で発生した電気信号が発生し、心房全体へ広がっていきます。
通常、心房から心室へ電気を伝える経路は房室結節だけです。
他の部分では、心房と心室は弁輪(心臓の弁を支持する組織)で繋がっており、弁輪には筋肉がないため電気は通りません。
このタイミングでWPW症候群では、副伝導路を介して心室に電気が伝わっているためQRS波形が見え始めます。正常の伝導では、伝導の遅い房室結節に電気信号がいます。
正常の伝導では、房室結節を抜けると一気に心室へ電気が広がっていきます。WPW症候群では、すでに電気信号が心室に広がっています。
正常の伝導では、一気に心室に広がった電気信号で広くないQRS波形が作られます。WPW症候群もデルタ波に続いて正常の波形が融合するような形になります。
WPW症候群に合併しやすい不整脈
WPW症候群に合併しやすい不整脈は、発作性上室頻拍と偽性心室頻拍です。頻度は発作性上室頻拍の方が多いですが、偽性心室頻拍は危険な不整脈です。
発作性上室頻拍
副伝導路を有する場合、特に心室から心房への伝導がある場合に発作性上室頻拍が起こる可能性があります。
房室リエントリー性頻拍
一般的には、副伝導路を通って心室から心房へ電気が伝わり、心房に広がった電気信号は房室結節を通って心室へ伝わり、また副伝導路を通る経路が多い。
- 幅の広くないQRS波形が規則的に見られます。
- P波は確認できる場合とできない場合があります。
偽性心室頻拍
WPW症候群に心房細動が合併した場合に、心拍数が多く、かつ規則的ではない広いQRS幅の頻拍が発生します。
基本的には心房細動は上室性不整脈ですが、心電図ではあたかも心室性不整脈のようにみえるので偽性心室頻拍(pseudo-VT)と呼ばれます。海外では、pre-excited AF(早期興奮を呈する心房細動)とも表現されています。
この不整脈の怖いところは、心室へ伝わる経路として副伝導路が使われることです。
心房細動中の心房の興奮頻度は1分間に400から600回とされます。これが全て心室に伝わると、心室はブルブルと震えるだけで、ポンプとして機能できなくなります。そうならないように房室結節がうまい具合に伝える電気信号を調整してくれます。
しかし、副伝導路はそのような調節機能を持っていないので、可能な限りたくさんの電気信号を通してしまいます。
副伝導路の機能によっては、1分間に250回以上の頻度で電気信号を通す方もいます。そうなると、危険な心室性不整脈が誘発されて突然死に至る可能性もあります。
WPW症候群の治療
WPW症候群を指摘されたら
WPW症候群を指摘されたら、必ず専門医を受診して病気の説明を受けましょう!WPW症候群があるからといって、必ず治療を行っているわけではありません。以下のような方は治療を考慮します。
動悸発作がある場合
発作性上室頻拍が合併している可能性があります。不整脈を生じる回路を持っているので、繰り返す可能性が高いでしょう。そのため、根治的にアブレーション治療を行う場合が多い
以前から軽い動悸はなんとなく気がついていたがそのままにしていた方は、治療について相談してみましょう。
社会的な治療適応
社会的適応という考え方があります。公共機関の運転手や高所作業をしている方は、万が一不整脈が発生した場合に大きな問題になりやすいため、治療をお勧めします。
発作性上室頻拍を認めたら
頻脈発作を認めた場合は、治療の対象になります。発作性上室頻拍の治療法には以下のような方法があります。
- 自分で止める(息止めなど)
- 薬物療法で止める
- アブレーション治療で根治的に治療する
症状の強さや頻度でどの治療方法を選択するか、医師とよく相談しましょう。アブレーション治療で根治的に治療できれば、発作が再発する可能性はかなり低くなります。
偽性心室頻拍を認めたら
偽性心室頻拍は血圧が下がったり、心室性不整脈を誘発することで、失神や突然死のリスクがあります。
急性期の治療
血圧や意識が不安定であれば、電気ショックを行います。
状態が安定していれば、抗不整脈薬(ナトリウムチャネル遮断薬など)で副伝導路の伝導性を落とすよう努めます。投与してはいけないクスリもありますので、注意が必要です。
慢性期の治療
副伝導路の伝導を遮断するように、アブレーション治療を強くお勧めします。希望されない場合は、抗不整脈薬にて経過を見ることになりますが、失神などのリスクはつきまといます。