この項は ⼀般社団法⼈⽇本感染症学会、⼀般社団法⼈⽇本呼吸器学会、および⽇本ワクチン学会による「2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する⾒解」を参考にしています。
高齢者は接種が推奨されている
新型コロナワクチンの全額公費による接種は2024年3月末で終了となりました。2024年10月から、自治体による定期接種が始まっています。
自治体による補助があり、有料にて摂取することができます。定期接種の対象は以下の方になります。
対象:
- 65歳以上の方
- 60〜64歳で以下の対象となる方
- 心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
上記のように定期接種の対象は高齢者となっています。
日本感染症学会、日本呼吸器学会および日本ワクチン学会による見解(2024年10月)では、
COVID-19の⾼齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流⾏に備
えて、10 ⽉から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨します。
となっています。その理由は以下の3点が挙げられます。
理由① 高齢者は免疫が不十分
日本で行われた調査では、2024年3月時点で新型コロナウイルスへの感染をしたことがある人の割合は全体で約60%でした。しかし、60代では約52%、70代では約33%であり、若い人と比べて高齢者の感染既往が少ないことがわかりました。
自然感染による免疫獲得ができてる高齢者は少なく、ワクチンによる免疫獲得が感染予防や重症化予防に重要となります。
理由② 高齢者は重症化リスクがある
最近の感染流行では、高齢者の入院患者が増加し、肺炎の重症者もみられるようになっています。
海外のデータから、オミクロン株の流行時において65歳以上の新型コロナウイルス感染 30日以内の致命率はインフルエンザによる入院患者よりも高いことが報告されています。
⾼齢者にとってインフルエンザの重症化および死亡リスクは⼤きいですが、新型コロナウイルス感染症はインフルエンザよりも重症化・死亡リスクはそれ以上と考えられます。
理由③ これからも流行が起こる
新型コロナウイルスは、後述のように変異を繰り返し免疫をすり抜けながら感染拡大を繰り返しています。一旦、落ち着いたようにみえても、また変異をして新たな感染ピークが起こる可能性があります。
高齢者以外は?
高齢者以外の新型コロナウイルスワクチンについては定期接種ではないため、自治体からの補助はありません。
また、高齢者以外の方についてはワクチンを接種した方が良いかははっきりとしたデータはしめされていません。
新型コロナウイルスワクチン
新型コロナウイルスの変異
新型コロナウイルス感染症は、中国の武漢で確認されてから世界中に拡大しました。新型コロナウイルスは変異をくり返しながら何度も感染のピークを作ってきました。
その度に感染力や重症化率が変化してきました。重症化率は当初と比べると低くなっていますが、依然として感染力が強く、ワクチンで作られた免疫をすり抜ける能力が高くなっています。
【新型コロナウイルスの変異株】
時期 | 株 | 備考 |
---|---|---|
2020年 初め | ワイルド型 | 後に出現する多くの変異株の元 |
2020年9月〜 | アルファ株 | |
2020年5月〜 | ベータ株 | |
2020年11月〜 | ガンマ株 | |
2020年10月〜 | デルタ株 | 感染力が非常に高く、致死率も高かった。 |
2021年11月〜 | オミクロン株(BA.1) | 多くの変異を持ち、サブ系統が多数存在する。 |
2022年 初め | → BA.2 | |
2022年 中盤 | → BA.5 | |
2023年 秋 | → XBB | |
2024年 初め | → JN.1 | |
2024年 夏 | → KP.3 |
新型コロナワクチンの効果
これまでの新型コロナワクチンは、パンデミックにおいて発症・重症下予防に高い効果を示し、感染防止に大きく貢献したとされています。わかっている効果は以下のようになります。
- 世界において、2020年12月からの1年間で新型コロナウイルス感染症による死亡を1400万人防いだ
- 本邦において、ワクチンが導入されていなければ、2021年2月から11月の間に、感染者数は13.5倍、死亡者数は36.4倍であったと推定される
新型コロナウイルス感染症は、ウイルスが変異することで流行を繰り返しています。新型コロナウイルス感染症を抑えるためのワクチンは変異したウイルスに効果がある必要があります。
2023年秋からのオミクロン株対応のワクチン(XBB.1系統)効果として、国内の報告によると60歳以上において新型コロナウイルス感染による入院を44.7%予防したとされています。
ワクチン同時摂取
新型コロナワクチンはインフルエンザワクチンとの同時接種が可能です。また、65歳で定期接種になっている肺炎球菌ワクチンと新型コロナワクチンの同時接種も可能です。
定期接種の新型コロナワクチンは5種類(2024年10月時点)
日本で定期接種で用いられる新型コロナワクチン(2024年10月)
製薬会社 | 種類 | 製剤名 | 保管 | 初回承認日 |
---|---|---|---|---|
ファイザー | mRNA | コミナティ筋注シリンジ | 2〜8 °C | 2021年2月14日 |
モデルナ | mRNA | スパイクバックス筋注 | 解凍後 2〜8 °C | 2021年5月21日 |
武田薬品工業 | 組換えタンパク質 | ヌキソビット筋注 | 2〜8 °C | 2022年4月19日 |
第一三共 | mRNA | ダイチロナ筋注 | 2〜8 °C | 2023年8月2日 |
Meiji Seikaファルマ | mRNA レプリコンタイプ | コスタイベ筋注 | 解凍後 2〜8 °C | 2023年11月28日 |
初回承認順に記載
mRNAワクチン
mRNAワクチンは、体内でウイルスに対する免疫をつくる新しい方法です。従来のワクチンでは病原体の一部(無害)を体内に注射し、それに免疫システムが反応して抗体の生成を促していました。
mRNAワクチンには病原体自体は含まれていません。ウイルスの「スパイクタンパク質」(ウイルスが感染する際に重要なタンパク質)をコードするmRNAという遺伝物質が含まれています。このmRNAが体内に入ると、細胞内でmRNAがコードされたタンパク質を一時的に作り出します。作り出されたタンパク質に反応して、抗体が生成されます。
いずれもターゲットは病原体の一部のタンパク質です。ターゲットのタンパク質を直接投与するのか、体の中で作らせるかの違いです。
mRNAワクチンの利点
mRNAワクチンは製造が比較的早く、変異に対応した新しいワクチンの開発が迅速行えることです。他の方法ではタンパク質の精製に時間がかかり、変異に追いつけません。
製造過程における安全性も高いことが良いところですが、mRNAは非常に不安定な物質であるため、低温で保存しないと構造が壊れる可能性があります。
新しい技術であり、安全性に関する懸念がありました。多くの情報が集積されているところです。
mRNAワクチン レプリコンタイプ
さらに新しいタイプのmRNAワクチンが開発されました。レプリカントタイプのmRNAワクチンは、取り込まれた細胞の中でmRNAが複製されます。細胞内で増えたmRNAによりターゲットになるタンパク質が生成されます。
感染力のあるウイルスが生成されるわけではないので、このタイプのワクチンを接種した方から他者へ感染が広がることはないようです。
ファイザーのコミナティとモデルナのスパイクバックス
ファイザーの「コミナティ」とモデルナの「スパイクバックス」は2021年から日本でも使用されるようになった「mRNAワクチン」です。すでに多くの効果が報告されています。
2023年秋からオミクロン株のXBB.1対応のワクチンも高齢者の入院予防や重症化を抑えた報告が海外でなされています。さらに、XBB.1の次の系統であるJN.1の流行期でも効果があったという報告もあります。
一つ前の変異株に対するワクチンでも効果があるということです。変異のスピードが速いため、ワクチンを作っても次の変異株になってしまいますが、効果は期待できます。
効果
XBB.1対応ワクチン:(欧米)60歳以上の入院予防効果 70%、接種後の新型コロナウイルス感染症の発症率はファイザーで26%、モデルナで25%。
副反応
共通した副反応:接種部の疼痛・圧痛、倦怠感
- 37.5度以上の発熱
以前の調査(2回目の摂取)
- ファイザー:38.1 %
- モデルナ:76.8 %
2023年秋のXBB.1対応ワクチン
- ファイザー:17.1 %
- モデルナ:39.0 %
- 心筋炎・心膜炎
2023年秋のワクチン(100万接種当り)
- ファイザー:0.04回
- モデルナ:0.33回
武田薬品工業のヌバキソビッド
遺伝子組み換えのタンパク質を用いたワクチン。同じ方法としてB型肝炎ワクチンで使用されている。ワイルド型のウイルスに対するワクチンによる試験では、発症予防効果や重症下予防効果はmRNAワクチンと比べても同等であった。
半年後には抗体価が低下しているが、1年後にも65%の発症予防効果を示している。
効果
XBB.1対応ワクチン:発症予防効果はファイザー、モデルナのmRNAワクチンと同等
副反応
共通した副反応:接種部の疼痛・圧痛、倦怠感
- 37.5度以上の発熱
2回目接種
- 全体 6.0 %
- 高齢者 4.0 %
3回目接種
- 全体 10.9 %
mRNAワクチンよりも発熱の頻度は低い
第一三共のダイチロナ
国産のmRNAワクチン。他のmRNAワクチンよりもターゲットなるmRNAの長さが短いため、同じ量のワクチンを体内に投与しても免疫を作る効果が高まる可能性があります。
国内での製造であり、パンデミックが起きた時に輸入に頼らなくても国産のワクチンで対応ができるようになりました。
効果
ウイルスに対する中和抗体を作る効果に優れています。
副反応
共通した副反応:接種部の疼痛・圧痛、倦怠感
- 37.5度以上の発熱
XBB.1対応ワクチン
- 全体 15.1 %
他のmRNAワクチンと同等
Meij Seika ファルマのコスタイペ
感染力のあるウイルスが生成されるわけではないので、このタイプのワクチンを接種した方から他者へ感染が広がることはないようです。
新しい技術であり、安全性などのデータが待たれます。
効果
ウイルスに対する中和抗体を作る効果に優れています。抗体価や抗体価持続が比較的良いようです。
副反応
共通した副反応:接種部の疼痛・圧痛、倦怠感
- 37.5度以上の発熱
- 20 %
他のmRNAワクチンと同等