肺炎
肺炎は、その名の通り肺に炎症を起こす病気です。
肺に炎症を起こす原因として、感染症(細菌、ウイルス、真菌など)やそれ以外の要因があります。感染症以外では、薬剤性、誤嚥性、アレルギー性などがあり、間質性肺炎という肺炎もあります。
ここでは、感染症による肺炎について説明します。感染症による肺炎は、特に高齢者や免疫力が低下している人に多く見られます。
症状は、発熱、咳、息切れ、胸の痛み、痰の排出などがあります。肺炎は重症化すると呼吸困難となったり、命に関わることもあります。
死因としての肺炎
「人口動態調査」から死因の順位を見てみると、肺炎は死因の5位で全体の5%程度を占めています。割合としては約5%ですが、言い換えると20人に1人は肺炎で亡くなっています。肺炎は場合によっては命にかかわる病気であり、無視はできないことがわかります。
特に肺炎が死因で亡くなった方の年齢を見てみると、そのほとんどが65歳以上です。
高齢者は肺炎になりやすく、死因につながる可能性があることがわかります。
肺炎球菌による肺炎は全体の2割
日常生活で発生した肺炎(市中肺炎)のうち、感染の原因となる細菌は以下のような順位で見られます。
- 肺炎球菌
- インフルエンザ菌
- 肺炎マイコプラ
- 肺炎クラミドフィラ
肺炎球菌は日常でかかる肺炎の原因菌として全体の約2割を占めることもわかっています。
また、肺炎球菌による感染症で髄液または血液から肺炎球菌が検出させるような重症な感染症を侵襲性肺炎球菌感染症と言います。65 歳以上の季節性インフルエンザ感染後の侵襲性肺炎球菌感染症患者の致命率は3割弱で、季節性インフルエンザ感染が先行しない場合と比較して高くなっています。
高齢者においてはインフルエンザワクチンおよび肺炎球菌ワクチンを接種することの重要性が示されています。
肺炎球菌に対するワクチン(成人用)
65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方 (第6版 2024年9月6日)を参考にしています。
肺炎の原因となる細菌のうちで最も頻度の多い肺炎球菌に対するワクチンが使用されています。肺炎球菌は、いくつもの型に分類されています。
100種類以上の型がわかっています。そのうち、特に重篤な感染症を引き起こす「型」に対してのワクチンが開発されるようになりました。重要な「型」は複数あるため、ワクチンも一つの型に対するものではなく多くの型に対応するように開発されてきました。
成人用として肺炎球菌ワクチンには以下のような種類が使用されています。
肺炎球菌に対するワクチン(成人用)
- PPSV23(23価 肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)
- PCV15(15価 肺炎球菌結合型ワクチン)
- PCV20(20価 肺炎球菌結合型ワクチン)
ちなみに、23価のワクチンは23種類の型をカバーしているという意味です。
成人用 肺炎球菌ワクチンの定期接種
成人用肺炎球菌ワクチンとしては、PPSV23の定期接種が行われている
PPSV23 未接種で
- 65歳の者
- 60歳以上65歳未満で日常生活が極度に制限される程度の基礎疾患を有する者
日常生活が極度に制限される程度の基礎疾患とは
- 心臓、腎臓、呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害がある方
- ヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害がある方
任意接種と定期接種
- 任意接種:接種費用は自己負担(自治体によって助成がある場合も)。
- 定期接種:法律に定められた期間で接種した場合は公費負担で無料。
PPSVとPCVの違い
PPSV23は1985年に薬事承認されています。PCVはPCV13、PCV15、PCV20がそれぞれ 2013年、2022年(高齢者)、2023年(高齢者)に薬事承認されています。
PPSVは肺炎球菌の一部を元に作らされた不活化ワクチンです。免疫システムはそれに反応して感染を防ぐ抗体を作成します。
PCVは、免疫システムを刺激しやすいキャリアタンパクを結合させることで、PPSVよりも免疫応答が高まるようなワクチンです。
PPSV23
- 接種タイプ
- 定期接種または任意接種
- 定期接種
- 65歳時
- 60歳以上65歳未満で厚生労働省令が定める基礎疾患を有するもの
- 任意接種(成人)
- 2歳以上で肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い次のような個人及び患者
脾摘患者における肺炎球菌による感染症の発症予防
肺炎球菌による感染症の予防
危険が高い患者さん(添付文書より)
- 鎌状赤血球疾患、あるいはその他の原因で脾機能不全で ある患者
- 心・呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病、 慢性髄液漏等の基礎疾患のある患者
- 高齢者
- 免疫抑制作用を有する治療が予定されている者で治療開始まで少なくとも14日以上の余裕のある患者
- 2歳以上で肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い次のような個人及び患者
- 接種方法
- 筋肉注射または皮下注射
- 発症予防効果
- 肺炎球菌による肺炎に対しての効果は27.4%、カバーしている血清型に対しては33.5%
- 血清型のカバー率は肺炎球菌性肺炎の7割弱、侵襲性肺炎球菌感染症の4割強
- 注意事項
- 有害事象:注射部位の疼痛、易疲労感、筋肉痛、発熱
PCV15 or 20
- 接種タイプ
- 任意接種のみ
- 任意接種(成人)
- 高齢者又は肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる6歳以上の者:肺炎球菌による感染症の予防
危険が高い患者さん(添付文書より)
- 慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患又は腎疾患
- 糖尿病
- 基礎疾患若しくは治療により免疫不全状態である又はその状態が
疑われる者 - 先天的又は後天的無脾症(無脾症候群、脾臓摘出術を受けた者等)
- 鎌状赤血球症又はその他の異常ヘモグロビン症
- 人工内耳の装用、慢性髄液漏等の解剖学的要因により生体防御機
能が低下した者 - 上記以外で医師が本剤の接種を必要と認めた者
- 接種方法
- 筋肉注射
- 発症予防効果
- 血清型のカバー率は肺炎球菌性肺炎の4~5割(PCV15)または7割強(PCV20)、侵襲性肺炎球菌感染症の30%(PCV15)または45%(PCV20)
- 注意事項
- 有害事象:注射部位の疼痛、易疲労感、筋肉痛、発熱
肺炎球菌ワクチンのタイミング
肺炎球菌ワクチンは65歳で定期接種のタイミングとなりますが、ワクチンとしての効果は数年で落ちてくることがわかっています。そのため、肺炎球菌の感染予防が必要と判断される状況では間隔を空けて再度接種することになります。
PPSV23を定期接種する場合
これまでPPSV23を接種したことない方が、65歳(または60~64歳で基礎疾患が該当)になると定期接種のタイミングです。公費で摂取することができます。
2回目以降の肺炎球菌ワクチン接種はどの種類でも任意接種となります。
2回目のワクチンをPPSV23にする場合は、5年以上の間隔をあけます。PCV20を選択する場合は、PPSV23の接種から1年以上あけて接種します。
PVC15-PPSV23連続接種(後述)を行う場合は、PPSV23から1年以上あけてPCV15を接種します。2回目のPPSV23は初回のPPSV23接種から5年以上あける必要があります。
PCV15-PPSV23連続接種の場合は、間隔が1年〜4年以内が適切のようなのでPCV15のタイミングをよく検討する必要があります。
66歳以上で任意接種
定期接種のタイミングを逃した場合は任意接種となります。その際の選択肢は以下のようになります。
- PPSV23
- PCV20
- PCV15-PPSV23の連続接種
PPSV23を選択した場合は、その後のスケジュールは上記と同様になります。感染ハイリスクの方は「PCV15-PPSV23の連続接種」または「PCV20」の接種検討が望ましいとされています。
感染ハイリスクの選択肢
基礎疾患があり感染した際に重症な感染症になりやすい場合や免疫不全状態にある患者さんでのワクチンとしての選択肢としては、「PCV15-PPSV23の連続接種」または「PCV20」の接種検討が望ましいとされています。
下記に各国の肺炎球菌ワクチン推奨状況を示します。
各国の肺炎球菌ワクチン推奨状況
米国(CDC, 2023) | 「PCV20」 または 「PCV-PPSV23連続接種」 |
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英国(JCVI, 2023) | 「PCV20」 または 「PPSV23」 |
カナダ(NACI, 2023) | 「PCV20」 または 「PCV-PPSV23連続接種」 |
フランス(HAS, 2023) | 「PCV20」 |
ドイツ(STIKO, 2023) | 「PCV20」 |
厚生労働省「高齢者に対する肺炎球菌ワクチンについて」(2023年12月1日)より
PCV15-PPSVの連続接種
米国では65歳以上のすべての成人と、PCVを未接種(あるいは不明)な慢性疾患のある19~64歳に対してPCV15-PPSVの連続接種を推奨しています(2022年1月)。
その理由は、PCV15接種後に15の型に対する特異的なメモリーB細胞が誘導され、その後のPPSV23接種により両ワクチンに共通な14血清型に対する特異抗体のブースター効果が期待されるからです。
PPSV23をブースター接種する際には、PCV15接種から1年くらい明けることでより高い効果が得られると報告されています。1年〜4年以内の接種が適切なタイミングのようです。