ペースメーカーとは?
植込み型心臓不整脈デバイスで最も歴史があるのが「ペースメーカー」です。ペースメーカーは、徐脈性不整脈による症状(めまい、失神や息切れなど)を改善させるための医療用器械です。
徐脈に対するペーシング:脈拍が極端に遅い(徐脈の)場合に、心臓のリズムを維持するために低電圧(1〜5V)で心臓のパルスを送ります(ペーシングします)。パルスに反応して心筋が収縮します。
ペースメーカーが働く仕組み
- ペーシングリードから心臓内の電気情報を収集
- 設定した心拍数を下回らないように、ペーシングリードを介して電気信号を心臓に送出
- 心房と心室はそれぞれ別のリードで管理されているため、両方にリードがあれば、心房→心室という理想的な電気パターンがとれる
ペースメーカーの種類
徐脈性不整脈に対するペースメーカーは2種類あります。
- 一般的なペースメーカー
一般的なペースメーカーは二つの部分で構成されます。
ジェネレーター(ペースメーカー本体):この小さな本体にはバッテリー(電池)と電気回路が収納されています。ペーシングリードを通じて運ばれた電気信号を解析し、脈拍を補い、調整するために電気刺激を送出します。
ペーシングリード(電極):リードの一方を心臓の部屋に配置し、もう一方はジェネレーターに接続します。心臓の電気信号をジェネレーターに伝え、ジェネレーターから電気刺激を心臓の部屋に伝えます。
- リードレスペースメーカー:リードのないペースメーカー
ペーシングリードを必要としないペースメーカーはリードレスペースメーカーと呼ばれます。
心筋に小さなペースメーカー本体を植込みます。
ペースメーカー手術の効果は?
ペースメーカー手術の目的は徐脈性不整脈による症状を防ぐことです。
徐脈により起こりうる症状:徐脈になることで脳や他の臓器に十分な酸素が供給されないことによる症状が起きます。
- めまい・失神
脳に酸素が到達しないことで起こる症状です。
非常に酸欠に弱い臓器です。数秒間酸素が到達しないことで、脳は活動を停止してしまいます。目の前がくらくなったり、ふらっと感じたりします。
ひどくなると一時的に意識がなくなって、姿勢が取れなくなり倒れます。
脳への酸素が滞ると、脳はダメージを受けます。命に関わる可能性もあります。
- 息切れ・心不全
全身に十分な酸素が到達しないために起こる症状です。
体が必要とする血液が期待通りに送り出されず、疲れやすかったり息が上がったりします。
心不全の症状の一部である可能性があります。心不全になると、体のむくみや体重増加、強い倦怠感や安静時の息切れを自覚するようになります。
上記のような症状が一般的ですが、時々認知機能の低下や動悸の原因が徐脈性不整脈であったりもします。
ペースメーカー手術の対象は?
【ペースメーカー植込み術の適応】
明らかな徐脈による症状がある徐脈性不整脈(洞不全症候群、房室ブロック)はペースメーカー植込み術の絶対的な適応です。また、中止ができない薬剤によって引き起こされる徐脈に対しても適応です。
- 洞不全症候群
電気を発生され脈拍を調整している洞結節の機能が低下している状態
電気発生の頻度が安定した状態と一過性に電気の発生が低下する状態がある
- 房室ブロック
房室結節の機能が低下し、ポンプである心室へ電気信号が伝わらない状態です。
軽度から高度と程度があり、高度になると心室へ電気信号が伝わりません。
ペースメーカー植込み後の心電図
植込み前:
植込み後:
植込み前:
植込み後:
ペースメーカー手術のリスクは?
ペースメーカー手術は、電線(または本体)を血管を通って心臓内へ到達させます。比較的安全な手術と言えますが、一定の確率で合併症が起こることがあります。
術中の合併症
- 気胸
- 血管合併症
- 心穿孔
- 脳虚血症状
- 造影剤による副作用
- 放射線による障害
術後早期の合併症
- リード位置移動
- 血腫
- 植込み部感染
- 横隔膜刺激
- 下肢深部静脈血栓症
術後遠隔期の合併症
- リード断線
- 植込み部皮膚壊死
- 静脈閉塞
- ペースメーカー症候群
- 皮膚壊死
通常のペースメーカーとリードレスペースメーカーで合併症が異なりますので、それぞれ以下をご確認ください。
ペースメーカー手術の入院の流れは?
外来受診から治療、治療後の流れは以下のようになります。
徐脈性不整脈の診断、自覚症状の問診を行います。解除可能な徐脈の原因がないかを精査し、ペースメーカー植込み術の必要性について検討します。
急激な高度の徐脈性不整脈が発生すると、失神や心不全で救急受診となることもあります。
ペースメーカー治療の選択肢をご提案します。治療のメリットおよびデメリットをご理解のいただき、患者さんおよびご家族と治療方針を決めます。
ペースメーカー植込み術にかかる時間は1〜2時間程度で行われることが多いです。治療中は局所麻酔を適宜使用します。できるだけ痛みを感じない状態で行われます。軽い鎮静を行う場合もあります。
入院期間は1週間前後です。施設により異なります。
ペースメーカーは植え込んでから、長い付き合いが始まります。ポイントはいくつかありますが、それほど難しいことはありません。
手術の費用・身体障害者申請・自動車運転について
手術の費用について
ペースメーカー手術は高額療養費制度の対象になります。年齢や所得に応じて支払う限度額が変わります。さらに、適切な状況でペースメーカー植込み術を受けると各自治体の役所に申請すると身体障害者の1級に認定されます。
障害者医療費助成制度により助成を受けることができるようになります。ただし所得制限があるようですので、詳細は治療を受ける施設にお問い合わせください。
生命保険会社へ手術給付金申請
生命保険に加入されている方は、入院や手術に対する給付を受けることができます。保険会社によって手術給付金の対象手術が異なる場合がありますので、ご加入の保険会社にご確認ください。
正式名称 | ペースメーカー移植術 |
コード | K 597 |
交換術の場合
正式名称 | ペースメーカー交換術 |
コード | K 597-2 |
身体障害者の申請
植込み型心臓デバイスを植え込んだ場合、申請することで身体障害者に認定されます。等級については、治療の推奨クラスや身体活動などで変わります。詳しくは下のリンクで確認してください。
自動車運転について
植込み型除細動器が植え込まれた場合、基本的に自動車運転は禁止されます。ただし、不整脈の状況などで運転が許可さえる場合があります。詳しくは下のリンクで確認してください。