脈拍が速くなった状態を頻脈と呼びます。一般的に正常とされる脈拍数は1分間に60回から100回になります。なので1分間に100回以上になった状態が頻脈です。
頻脈性不整脈を診断する
不整脈診断の基本は心電図
不整脈の診断は心電図で行われます。
不整脈が発生していない時の心電図をみても診断はつきません。不整脈にも持続するタイプとたまに出るタイプがあります。たまに出るタイプの不整脈を見つけるためにいろいろな心電図の装置を駆使します。
心電図をみて、どこでどんな電気減少が起きているのかを推定します。
心電図の診断は有用ですが、不整脈が出ていない状況で心電図をみても診断はつけられません。症状の原因を探るべく、症状の間隔によって心電図の記録時間が違う検査を選択します。なんとか不整脈を検出し、診断をつけます。
- 心電図:10〜20秒間(3分間測定できるものもある)
- ホルター心電図:24時間
- イベントレコーダー:1〜2週間
- 携帯型心電計:任意のタイミング
- 植込み型心電図記録計:3〜4年間(不整脈や自覚症状の時のみ記録;適応は失神と原因不明の脳梗塞)
- スマートウォッチ(心電図波形が記録可能なもの):任意のタイミング
詳細な診断は心臓電気生理検査で
心電図から不整脈の診断できることがほとんどですが、正確な不整脈のメカニズムを知るためには心臓電気生理検査が有用です。
血管を通って心臓の中に電気信号を拾うカテーテルを挿入します。そこから電気刺激をすることも可能です。
電気信号の伝わり方や電気刺激による反応をみることで、詳細に不整脈の診断を行います。
アブレーション治療を受ける際に、併せて行われることが多いです。
頻脈性不整脈の治療
不整脈の治療は、頻脈性不整脈と徐脈性不整脈が大きく異なります。頻脈性不整脈の治療については、3パターンの考え方があります。
- 不整脈を止める
- 不整脈の再発を予防する
- 不整脈とうまく付き合っていく
不整脈を止める治療
頻脈性不整脈により症状が強い場合、不整脈を止める方法を検討します。止める方法には、電気ショックと抗不整脈薬があります。発作性上室頻拍と診断がついていれば、自分で止めることもあります(バルサルバ手技)。
抗不整脈薬
頻脈性不整脈を止めたり、脈拍を抑えたりする作用があります。一度止まった不整脈の再発予防でも使われます。
抗不整脈薬は多くの種類があります。
内服する場合と注射・点滴で投与する場合があります。
副作用の注意が必要です。副作用の出現にも気をつけて投与する必要があります。
電気ショック
心臓に大きな電気刺激を与えて、乱れた電気信号を停止させる方法です。不整脈が停止し、自分の正常なリズムを取り戻す時に使用します。電気ショックが可能な装置には以下のようなものがあります。
- 対外式除細動器
- AED
- 植込み型除細動器
- 着衣型除細動器
電気ショック可能な機械の説明はこちら
- 対外式除細動器
パドルを体の表面に心臓をはさみ込むように押し当てて、電気ショックを与えます。病院内で行われます。
危険な不整脈の場合は、直ちに行います。不整脈がなんらかの問題を発生させていて、他の治療が無効の場合は待機的に行うこともあります。
痛みを伴うので意識があれば鎮静して行います。
- AED(Automated External Defibrillator)
- 植込み型除細動器(ICD)
体内に植込むタイプの除細動器です。
自動で不整脈を検知し、自動で治療を行います。体内に植込む手術が必要です。
命に関わりそうな重篤な心室性不整脈を起こしたことがある方、または起こる可能性が高いと判断された方が適応になります。
- 着衣型除細動器(WCD)
着るタイプの除細動器です。
患者さんの心電図を監視し、重篤な不整脈を検出した場合に電気ショックを行います。着用型であり、手術は不要です。
使用期間は3ヶ月間と限定されています。その間に、心臓の治療を行います。心臓の機能や不整脈の改善がなければ、ICDを植え込みます。ICD適応評価までの治療です。
バルサルバ手技(発作性上室頻拍のときは)
特に発作性上室頻拍を自分で止める方法です。
大きく息を吸って息を止めて、お腹にぐーっと力を入れます。数秒間我慢して、ハーっと息を吐きます。
冷水を飲んだりすることでより効果が上がることがあります。
風船を膨らませるのも効果があるようです。
不整脈の再発を予防する治療
不整脈は一度止めても、再発することがあります。再発を防ぐための治療としては、アブレーション治療、抗不整脈薬、生活習慣の改善と誘因の除去があります。
アブレーション治療
頻脈性不整脈に対して行われるカテーテル治療です。
治療用のカテーテルを使用し、不整脈の原因として強く関与している心筋に対してやけどを作る治療方法です。
不整脈を根治的に治療できる可能性があります。
抗不整脈薬
頻脈性不整脈の再発予防で使われます。
不整脈の種類に応じて効果が期待できる薬の種類も違いますし、効くことも効かないこともあります。
特有の副作用があります。継続的に内服する場合は、副作用の出現に気をつける必要があります。
ライフスタイルの見直しを!
不整脈の発生の引き金となる誘因を取り除くことで、不整脈が減ることがあります。
- バランス良い食事
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を抑えるため肉類や菓子類は控えましょう。肉よりも魚を選択します。
炭水化物は取り過ぎに注意(ご飯の量を測る)し、全粒穀物(玄米、全粒粉など)の割合を増やしましょう。野菜、きのこや海藻などを多く取り入れましょう。
果物も適度に食べてください。発酵食品も良いかもしれません。
- 適度な運動と健康的な体重を維持
できるだけ座っている時間を短くします。息が上らない程度の持続的な運動(有酸素運動)を可能であれば、30分間行うことを目標にしましょう。まずはいつもより10分間は歩くなど、身体活動を生活に取り入れます。
肥満があれば、減量に励んでください。肥満は多くの心臓病や生活習慣病のリスクを高めます。
- 血圧やコレステロールのコントロール
高血圧や高コレステロール値は、心臓病のリスクを上げます。心臓の負担を取るためにもライフスタイルの見直しに努めましょう。
健康診断などで指摘されたら、かならず近くの医療機関に相談しましょう。
- ストレスのコントロール
精神的および身体的ストレスは、不整脈を増やし心臓に悪い影響を与えます。不必要なストレスを避けるように心がけましょう。
瞑想やヨガなども効果があるでしょう。
- アルコールを制限
アルコールと不整脈は強く関係しています。不整脈を持っている方は、アルコールはできるだけ摂取しないほうが良いとされています。
- 禁煙
喫煙習慣も心臓への負担を増やし、不整脈に影響します。禁煙を強く勧めます。
近くの禁煙外来をしているクリニックに相談してもよいでしょう。
- 睡眠時無呼吸症候群の評価を
睡眠時無呼吸症候群は不整脈の原因となります。さらに不整脈以外にも、多くの病気の原因になります。
いびきや睡眠中の無呼吸が指摘されたことがあれば、一度は必ず検査を受けましょう。重症度に応じてCPAP治療などを行います。きちんと治療をしないと予後が悪いこともわかっています。
不整脈とうまく付き合っていく
不整脈の中にはそのままにしていても支障のないものもあります。また、多少支障があっても侵襲的な治療を希望されなかったり、治療しても無効であることもあります。
そのような方は不整脈のまま経過を見ることになります。その場合、不整脈が持続することで生じうる問題が起きていないか確認し、起きていれば悪化しないように対応していくことになります。
自覚症状の乏しい心房細動
自覚症状が乏しく、心不全の所見がない場合は、脳梗塞の予防だけで経過を見ることもあります。まれに、治療したら自覚症状が軽くなる(無自覚な症状がよくなる)方もいます。
自覚症状の乏しい期外収縮
頻拍ではありませんが、期外収縮も自覚症状が乏しいことがよくあります。心臓の機能が問題なく、心不全などの症状がなければそのまま経過をみても良いです。まれに、治療したら自覚症状が軽くなる(無自覚な症状がよくなる)方もいます。